本日、2008年11月23日は、ポーランドの作曲家クシシュトフ・ペンデレツキの75回目の誕生日です。
この人については、直接的な先人であるルトスワフスキから受け継いだものと、ケージやクセナキスの音楽から受けた影響なども含めて、また、『ルカ受難曲』のような20世紀の宗教音楽を代表する作品をめぐって、そしてさらに、ある時期以降の、一種「ネオ・ロマン主義」的作風への「転向」の問題など、語らなければいけないことは山ほどあるのですが、今日は、この人の存在を音楽の世界で一気に知らしめることになった曲であるとともに、20世紀の音楽として絶対にすべての人に聴いてほしいと私が思っている曲をただ一曲だけ紹介することにしたいと思います。
『ヒロシマの犠牲者への哀歌』(1959-1960)という曲です。
トーンクラスターと特殊奏法のみで成り立っているような曲ですが、「ヒロシマ」の後で「クラシック音楽」を作曲したり演奏したり聴いたりすることの可能性の一つを(少なくとも60年代には)示していたものだと言えると思います。
まずはスコアをご覧ください。
CDは、作曲者自身の指揮で代表的な作品を二枚組みにまとめたものが廉価で入手できます。
ペンデレツキ/自作自演集
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ペンデレツキ/管弦楽曲集1
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しかし、やはり、まず聴いていただきたいと思うのは、ヘルベルト・ケーゲルの指揮によるものです。
あのケーゲルによる演奏です。
スコアからもうかがえると思いますが、ただでさえこのように過激な曲ですから、そのトゲトゲしさ、オドロオドロしさが極限まで追求されている演奏、というものを想像するかもしれません。でも、意外なことにそうではないのです。
もちろん、実際に鳴り響いている音は十分に刺激的なのですが、そこになんとも不思議な深々とした哀しみが漂っていてたいへんに「感動的」な演奏になっています。
ケーゲルの演奏は、15枚組みのボックスに入っています。
ケーゲル/15CDボックス
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この『ケーゲル・ボックス』、ケーゲルの重要な録音がぎっしり詰め込まれていて、しかもたいへん廉価で入手できます。
『カラヤンがクラシックを殺した』(宮下誠・著)の中で言及されている録音のかなりのものが収められています。
この書物に対して否定的な意見を述べる人の前置きに、「ケーゲルの演奏はあまり聴いていないが・・・・・・」という文言をしばしば見かけますが、このボックスを入手してぜひしっかり聞き込んでいただきたいものです。著者の述べていることに共感できるようになるかもしれません。あるいは、著者の思わない弱点を発見できるかもしれません。
このボックスは2001年に発売されました。かなりよく売れたように聞きます。
ということは、すでにこのボックスを持っている人が世の中にはたくさんいらっしゃると考えられます。その人たちにこそ宮下誠さんの新刊を読んでいただきたいものだと思います。
そして、それぞれの演奏についての記述とつきあわせながらもう一度よく聴きかえしてみていただきたいものです。
感動を新たにするか、それとも、著者に対して怒りを覚えるか。いずれにしてもより深くケーゲルを聴くことになると思います。
ちなみに昨日(11月22日)が生誕95年の記念日であったベンジャミン・ブリテンの『戦争レクイエム』の苛烈な録音もこのボックスには収録されています。