今日はヨハン・ネポムク・フンメル(1778年11月14日プレスブルク生、1837年10月17日ヴァイマール没)の生誕230年の誕生日です。

 現在では、あまり好んで聴かれることのないこの人のことを私は大いにお勧めしたいと思います。


 まずは、その生涯というか、音楽家としての修業について簡単に。

 神童として5歳のころからヴァイオリンを、6歳のころからクラヴィアを、人前で演奏したと言われていますが、そのあたりはどうなんでしょう。

 幼少時代のことで確かなことは、7、8歳の時にモーツァルトに見込まれ(!)、モーツァルトが自分の家に住み込ませて無償で弟子にしたということです。もっとも、フンメル少年にとって幸福きわまりないこの状態は、モーツァルト本人の経済的な逼迫により、2年程で終止符が打たれることになりますが。

 その後の数年フンメル少年は、父とともに演奏旅行の日々を送ることになりますが、その間に、サリエリに師事し、さらにはハイドンの弟子になり、この老巨匠からの大きな期待と信頼を得ることになります。

 また、イギリスではクレメンティにも師事しています。

 そして、1804年には、エステルハージ候の楽士長となります。ここの楽長は言うまでもなく老ハイドンだったのですが、それはすでにほとんど名目上のもので、実質的には楽長だったようです。途中いろいろとあったようですが、1811年までこの地位にいました。

 1811年にヴィーンに戻ってからはもっぱら作曲に専念しました。1819年からはヴァイマールの宮廷楽長として大変な尊敬を集めていたようです。

 ピアノ奏法についてのたいへんに浩瀚な著作があって、それは同時代およびあとの時代のピアニストやピアノ曲の作曲家に圧倒的な影響を与え続けてきました。


 以上のような経歴からもわかるように、この人は、ハイドンの弟子であり、サリエリの弟子であり、そして何よりもモーツァルトの弟子であるのです。いわば最も正統的なヴィーン古典派の後継者なのです。

 ベートーヴェンが完全に同時代の人であるわけですが、ライヴァルであると同時に友人でもあるという微妙な関係であったようです。決定的に仲が悪かったり、対立したりということはありませんでした。

 どれくらいベートーヴェンを意識していたかということは、交響曲に対するフンメルの姿勢にうかがえます。

 フンメルは古典派の作曲家が手を染めるジャンルであればまずほとんどすべてに作品を書いているのですが、交響曲だけは一曲も書いていないのです。このジャンルにおけるベートーヴェンの「偉大さ」を痛感していたのでしょうね。


 ということで、フンメルの音楽の面白さはどこにあるか。

 一言でいうと、ハイドンやモーツァルトとシューベルトやメンデルスゾーンのちょうど真ん中の音楽ということです。

 まさに、ハイドン(1732-1809)やモーツァルト(1756-1791)に代表されるヴィーン古典派の音楽と、シューベルト(1797-1828)やメンデルスゾーン(1809-1847)、ショパン(1810-1849)、シューマン(1810-1856)、リスト(1811-1886)など初期ロマン派の音楽の、本当に中間にある音楽なのです。

 年代的には、ベートーヴェンがそれにあたるのですが、この人の場合、音楽史の自然な流れよりも、個人の特性というか型やぶりの天才性があまりにも強すぎて、古典派から初期ロマン派へという流れが見えづらくなってしまっています。

 以下にずらりとCDを挙げますが、このうちのどれでもいいですから、一度お聴きになってみてください。18世紀後半から19世紀前半にかけての古典派から初期ロマン派へという音楽史の流れが、実になめらかに、自然なグラデーションで連続しているものだということが実感できると思います。



まずは、フンメルと言えば一番有名なトランペット・コンチェルト。


Haydn, Hummel: Trumpet Concertos
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入手しやすさという点を考えておもにナクソスから選んでみます。


本当にモーツァルトとショパンを足して2で割って少し冗長にしたようなピアノ・コンチェルト。

この冗長さがまたたまりません。

Hummel: Piano Concertos Nos. 2 & 3
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モーツァルトのレクイエムが好きな人にはきっと気に入っていただけると思います。

でもこの明朗さはむしろハイドン寄りでしょうか。

フンメル:荘厳ミサ曲/テ・デウム/グロット
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そしてフンメルと言えば、やはりピアノ曲です。

ともかく楽しい一枚です。

「ショパンみたい!」と思われるかもしれませんが、歴史的に正しく表現するならショパンがフンメルみたいなのです。

フンメル:幻想曲集(乾まどか)/乾まどか
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ピアノ・トリオというジャンルにもよい作品をたくさん残しています。
フンメル:ピアノ三重奏曲第3番, 第4番/ピアノ四重奏曲ト長調/チェロ・ソナタ/マックス
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ヴァイオリン・コンチェルトも素敵です。

ピアノとヴァイオリンのためのコンチェルトという珍しいかたちの曲もいいものです。

フンメル:ピアノとヴァイオリンのための協奏曲 Op. 17/ヴァイオリン協奏曲/トロスティアンスキー
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そしてフンメル自身の作曲ではないのですが、非常に重要で興味深い録音が4枚あります。

モーツァルトのピアノ・コンチェルトの7曲をフンメルはピアノ、フルート、ヴァイオリン、チェロという編成のために編曲しているのですが、単なるトランスクリプションではなくて、かなり音を付け加えたりしていて、そのためにモーツァルトが古典派と初期ロマン派の中間の音楽として生まれ変わっています。

何とも不思議な、そして、感動的な世界です。

実はこのシリーズが一番のオススメかもしれない。

われらが白神典子(しらが・ふみこ)さんが健闘しています。

なお、このシリーズの完結編にあたる4枚目は同じ編成による「交響曲第40番」の編曲が収められています。


シリーズの最初の一枚は、第20番と第25番。

この一枚だけでもいいですから是非お聴きください。

モーツァルト(フンメル編曲):室内楽版ピアノ協奏曲 [ImpOrt]
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二枚めにあたるこれには、第10番と第24番。

モーツァルト(フンメル編):室内楽版ピアノ協奏曲Vol.2 [Import]
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モーツァルト(フンメル編曲):ピアノ協奏曲第26番ニ長調 K.537「戴冠式」(室内楽版)、ピアノ協奏曲第22番変ホ長調 K.482(室内楽版) [Import]
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モーツァルト(フンメル編曲):ピアノ協奏曲第18番変ロ長調 K.537(室内楽版)、交響曲第40番ト短調 K.550(室内楽版) [Import]
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日本フンメル協会を作りたいものです。