今日、10月25日は、ヨハン・シュトラウスⅡ世(1825-1899)とジョルジュ・ビゼー(1838-1875)の誕生日です。
ビゼーは36歳という若さで亡くなっていますし、生前にはそれほど高い評価を勝ち取ることはできませんでした。それに対して、ヨハン・シュトラウスⅡ世は倍以上の寿命に恵まれ、しかも、作曲家としてはたいへんなスターでした。
そのように対照的と言ってもよいようなこの二人が同じ誕生日というのは面白いことなのですが、実はこの二人、命日も同じ(6月3日)なのです。
そして、さらに面白いことをお話しましょう。
この二人の対照的な生涯をそのまま反映しているかのようなそれぞれの代表作です。
つまり、シュトラウスの『こうもり』とビゼーの『カルメン』。
この二作、ほぼ同じ時期に作曲されていたということをご存知ですか
『こうもり』は1874年の春に短期間で、『カルメン』は1873年に作曲に取り掛かり、1974年の早くに完成しています。
さらにこの二作にはもっと不思議な因縁があるのです。
『カルメン』の原作の小説の作者がメリメであるということはよく知られていると思いますが、原作小説から台本を作ったのは、メイヤックとアレヴィのコンビ。
そして、このコンビのある戯曲が、実は『こうもり』の原作なのです。
『こうもり』と『カルメン』。
この対照的な作品の間にある不思議な因縁には何かもっと運命的なものを感じませんか
実はまだまだ他にもこの二つの作品には共通するエピソードがありますが……。
そして、この二つの作品を並べると、そこに、二人の指揮者の姿が浮かんできます。
言うまでもなく、一人はカルロス・クライバーです。
そして、もう一人は……。
カルロス・クライバーという名前を聞いただけで、熱いものがこみ上げてくる人がたくさんいらっしゃると思いますが、クライバーについてはいずれまた、ということにします。
今日は、『こうもり』と『カルメン』の両方に歴史に残る決定的な名盤を残してくれた歌い手について書きたいと思います。
その人の名は、
★゚・:,。゚・:,。アンナ・モッフォ
゚・:,。゚・:,。★
『こうもり』ハイライト(英語歌唱)
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『カルメン』
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メトロポリタン・オペラ史上最も美しいソプラノと言われた人です。
もちろん、容姿が美しいだけではメトで長年重要な役を歌い続けることなどできるはずがありませんから、歌い手としての実力も最高級のものです。
この人が残した数多くの名盤やすばらしい映像は次回に紹介することにします。ここでは上に挙げた2枚のCDについて簡単に絶賛します。
まず『こうもり』は、1963年の録音でモッフォを初めとして当時のメトを代表する歌い手たちがヴィーンに行って、ヴィーン国立歌劇場のオーケストラをバックに、この曲の聴き所を英語で歌ったものです。
やや特殊なものですが、その美しさ、楽しさは比べるものがありません。
そして『カルメン』。
モッフォという人は、『ルチア』の有名な名演も残していますが、決して、ドラマティックな歌唱や技巧的なところを売りにしていた人ではありませんでした。むしろ、抒情的な、柔らかい風情のある歌いぶりの人でした。
しかし、その声に独特の翳りがありました。その翳りというか、暗さが絶妙に生かされたところに、この『カルメン』の(私としては最高の)名演が生まれたのでした。
マゼールがモッフォの声を最大限に生かすような実に見事な指揮をしています。
『カルメン』の全曲盤としては一、二を争う名盤であると私は確信しています。
(モッフォの「名盤紹介」につづく)