26年前の今日、グレン・グールドが天に召されました。


  本日は私が愛聴しているグールドのCDの中から、もしかするとあまり知られていないかもしれないと思われるものを取り上げたいと思います。


  やはり、最も貴重なものは次に挙げるCDではないでしょうか。




グールド/弦楽四重奏曲作品1・『ジークフリート牧歌』ほか icon  左矢印HMVへ

 1953年~55年、プロのピアニストとして本格的な活動を開始したころにグールドが作曲した『弦楽四重奏曲 作品1』と、亡くなる直前に録音していた、指揮者としてのグールドの(おそらく)唯一の正規のスタジオ録音(注)であるヴァーグナーの『ジークフリート牧歌』をカップリングして、さらに、ヴァーグナーの『神々の黄昏』からの「夜明けとジークフリートのラインへの旅」のピアノ編曲版(これは後に挙げるヴァーグナー・アルバムの中に入っているものと同じものです)が収められています。

 こんなに素晴らしい内容なのに、1250円です。


 まず、『ジークフリート牧歌』について。

 前代未聞のゆったりとしたテンポで演奏されています。それが楽器のバランスや各楽器の表情の付け方と相まって実にしみじみとした優しい風情の音楽になっています。このゆったりとしたテンポは、あとで触れるピアノでの演奏とほぼ同じです。

 次に、弦楽四重奏曲について。

 グールドの音楽家としての出発点がどこにあるのか、いや、出発点だけではなくて、生涯にわたって追い求めたものがなんであったのか、それを考えるための大きなヒントを与えてくれるCDです。

 というと、なにか資料的価値が勝ったもののように映ってしまうかもしれませんが、そうではありません。

 お聴きになればまずまちがいなく、他ではちょっと味わえないような不思議な陶酔、名状しがたい恍惚感に捉えられるでしょう。

 全体的には初期のシェーンベルクをもう少し薄味にしたような音楽ですが、ところどころ、初期のヴェーベルンのような透明で硬質な感傷性を感じさせもします。

 20年ほど前に手に入れた非売品のCDについている解説で、石田一志氏は「ショーソンを彷彿させるところがある」と書いています。

 ピアニストとしてコンサート活動をしていた頃にも新ヴィーン楽派は非常に積極的に取り上げていましたし、米コロムビア・レコードのシェーンベルク全集では大活躍をしていたのですから、グールドにとって新ヴィーン楽派、とりわけシェーンベルクは重要な作曲家であったのでしょう。


 だから次に挙げるようなシェーンベルクの稀有な名演(と私は思うのですが)が生まれたのだと思います。

 より輝かしく明晰な演奏ということではポリーニの方が勝っているのでしょうが、私はこれらの曲を聴きたくなるとまずこのグールド盤を聴いてしまいます。




シェーンベルク:ピアノ作品集&歌曲集 icon 左矢印HMVへ



 そしてレコードが出たときにはいささか物議をかもしたヴァーグナー・アルバムです。リストやビューローによる、できるだけ原曲に忠実にピアノに置き換えた「トランスクリプション」とは違い、グールド自身による「編曲」版です。

 『マイスタージンガー』第1幕への前奏曲、夜明けとジークフリートのラインへの旅、ジークフリート牧歌、の3曲。このアルバムの存在や、死の直前の指揮者としての「ジークフリート牧歌」の録音からも、いかにグールドがヴァーグナーを愛していたかが伝わってくるように思います。



『マイスタージンガー』前奏曲、ジークフリート牧歌他 icon  左矢印HMVへ



 そしてこれがグールドの最後の録音です。




リヒャルト・シュトラウス:ピアノ・ソナタと五つのピアノ小品 icon  左矢印HMVへ


 リヒャルト・シュトラウスのここに収められた曲はどちらもかなり珍しい曲ですが、本当に魅力的です。

 グールドの遺言のような気がします。

 今日は一日中これを聴くつもりです。


(注)グールドが指揮をした映像は、私が知っている限りでは、なぜかマーラーの交響曲第2番の第4楽章のものがあります。


*今日ここに挙げたCDは油断をしているとすぐに廃盤になってしまう恐れがあります。