ある時、一休禅師が京都の豪商から、
法要に呼ばれることになりました。
ところが前日にたまたまその商家の近くを通ったので、
ちょっと立ち寄ってみることにしました。
一休の顔を知らない門番が、
貧しい身なりの一休を見て怒鳴りました。
「これこれ、乞食坊主、物貰いなら裏へ回れ!」
と追い払おうとしました。
「いや、拙僧はこの家の主人に会いたいだけだ」
といっても門番は聞かず、
「馬鹿も休み休みにいえ、
お前のような乞食坊主にご主人様がお会いするはずはない、
さっさと帰れ、帰れ!」と、
一休を追い払おうとするので、
「これこれ、お前は門番だろう。
お前の役目は客人を案内することではないのか。
主人に面会したい者がいるからと告げよ」
と一休が門番を諭すようにいうと、
「何を生意気な乞食坊主が!」
と激昂した門番に叩き出され、
ほうほうの体で立ち去るしかありませんでした。
翌日、法要のために紫の「法衣」を身にまとい、
弟子を連れて豪商の家の門前に立つと、
昨日の門番も偉い僧侶が来たという面持ちで、
低頭して一休を恭しく迎え入れました。
玄関先にその家の主人も出迎え、
一休を法要の場所に導いていきました。
奥座敷に着くと一休は、
「ご主人。昨日は大変なもてなしを頂きました」
とニヤリと笑うので主人が、
「宗純さま、昨日もお立ち寄りくださいましたか、
お声をかけて下さればようございましたのに」
という言葉に、
「いや、そこまで来たついでと思ってな。
主人に会いたいといったところ、
乞食坊主にご主人が会われるかと、
追い出されましてなあ」。
それを聞いた主人は顔色を変えて、
「それは知らなかったとはいえ、ご無礼を致しました。
何とお詫び申し上げたらよいのか。
どうしてまたその時に、
宗純様のお名前をおっしゃって下さらなかったのでしょう」
と平身低頭する主人の前に紫の「法衣」を脱ぎ捨てた一休は、
「この一休には、何の価値もない。
紫の法衣に価値があるのだから、
この法衣にお経を読んでもらったらよかろう」
というなり、
「法衣」を置いてさっさと帰っていったということでした。