豪雨災害から半年を目前に控えた2020年12月18日、人吉駅近くに店を構える「シャリバリ」が再オープンしました。全国にファンを持つHITOYOSHIシャツの販売店です。
小さな店舗ですが知る人ぞ知る店です。以前は本当に目立たない店でしたが、おしゃれなサインポストができました
HITOYOSHIシャツの製造会社は2009年に創業されました。安い外国製シャツに押され、国内のシャツ工場が次々と廃業する中、HITOYOSHIシャツの親会社も経営破綻に追い込まれました。人吉の工場も閉鎖の危機でしたが、工場長の竹長一幸さんらが立ち上がり、MBO(経営陣が参加する買収)によって、数少ない国内生産工場として生き残りました。
昨年1月、その工場を訪れました。広いフロアでは何人もの従業員が巧みにミシンを操り、生地を立体的に縫い合わせていきます。一歩足を踏み入れて目を見張りました。
HITOYOSHIシャツの工場。様々なブランドのシャツが生産されています。自動ミシンはすべて廃棄したそうです(2020年1月撮影)
「ここをこう縫い合わせていくんです」。竹長さんは丁寧に説明してくれました(同)
東京・有楽町の阪急メンズ東京には、内外の一流ブランドと並んでHITOYOSHIシャツのショップがあります。政治家、芸能人など有名人の愛用者も多く、「HITOYOSHI」のブランド名が「人吉」の地名からきているとは知らない人も多いそうです。
阪急メンズ東京地下1階のショップにはHITOYOSHIのシャツがいくつも並べられていました(2020年2月撮影)
竹長さんが製造のプロなら、シャリバリ代表の古賀野豊浩さんは販売のプロです。豪雨災害の時には、店の天井まで濁流が押し寄せ、古賀野さんが駆けつけたときには、手が付けられない有様でした。それでも、長年親しんだこの地を捨てることは考えなかったそうです。
シャツ販売歴32年の古賀野さん。なかなかダンディーです。
古賀野さんが採寸するオーダーシャツは身体にフィットし、しかも動きやすいと評判です。「古賀野さんに作ってほしい」と東京や大阪からこの店を訪れる人もいるといいます。値段もリーズナブルで、私も1着オーダーしました。出来上がりが楽しみです。
この2人にデザインのプロであるHITOYOSHIシャツ社長の吉國武さんを加え、3人のプロがそろったチームは最強のトリオと言ってもいいでしょう。
人吉を訪れる人は、たいてい温泉旅館や鉄道、球磨川下りが目当てです。お酒好きなら球磨焼酎も魅力でしょう。しかし、そのすべてが豪雨災害で被災してしまいました。
まだまだ災害の爪痕が残る人吉ですが、世界品質のHITOYOSHIシャツを作りに来るだけでも、価値があると思います。機会があったら、連絡をとって工場にも訪れてみて下さい。そのついでに、球磨川沿いや人吉城址を散策し、青井阿蘇神社に参拝して、立ち寄り湯につかるという旅はいかがでしょうか。