仕事帰り、電車に乗り込むと、
3名掛けの椅子の真ん中が空いていた。

ワタシは迷わず座り、ニンテンドーDSの電源を入れる。
音楽を聴きつつ、ゲームに集中していると、
右斜め後ろから視線を感じる・・・

なにやら隣のオバサンがワタシのゲームを覗き込んでいる。
見られていることは分かりつつも、ワタシはゲームを続ける。


「最近の若い子はなんでもできるからねぇ、えらいわ~」

突然話しかけられる。
DSを覗き見していた右隣りのオバサンだ。
すぐに、音楽のイヤホンをひとつはずし、

「いえいえ、簡単ですよ~」と答える。

そして、すぐ外したイヤホンを耳に戻し、
ゲームの続きをしようとしたら・・・


オバサン「若い子はいいねぇ。・・・オバチャン、不治の病やからな。」

えええええぇぇー!!!!
とっさにイヤホンを両耳ともはずす。


ワタシ「ええ!!・・・あの、大丈夫なんですか?」

不治の病なのに大丈夫なわけないけれど、
他になんて答えたらいいかもわからない。


オバサン「明日をも知れぬ身体やねん。病院からも見放されてるからな」

ワタシ「ええ!!・・・今は大丈夫ですか?」

大丈夫なわけないけれど、やっぱり他に言葉が見当たらない。


オバサン「病院行っても煙たがられるからね。」

ワタシ「お気の毒な・・・でも、煙たがられるって・・・?」(ちょっと興味アリ)

オバサン「なんかね。しんどくて行ったら『また来たんですか』とか言うねん。」

ワタシ「・・・・・。」


『また来たんですか』の言葉には、ウザ迷惑なニュアンスが含まれている。

普通、不治の病な人にそんな事を言わない。
むしろ、お気の毒なので、多少の粗相も我慢できるぐらいだ。

でも、もし不治の病な人に言っちゃったとしたら・・・
その人は、不治の病をもぶっ飛ぶほど、相当ウザイ人物なのだろう。

もしかして、この人ちょっと変わってるかも??
初対面のワタシに「不治の病」とか言っちゃってるし。
ワタシの心に一抹の疑念が生じる。


ワタシの疑念をよそに、オバサンの話は止まらない。


オバサン「友達と長電話したら、私から掛けてるのに、
     横でご主人が文句言ってるのが聞こえてね。感じの悪い人やろー。
     電話代は私が払ってんのに、おかしいよね?
     その後、すぐ癌で亡くなりはったみたい。(ちょっと小声)
     やっぱり、すぐ怒る人は長生きしーへんもんやと思ったわ」

ワタシ「あー、まぁ笑うと健康にいいって聞きますねぇ」

と言いながら、終わらない会話にギブアップ。
こっそりDSの電源を切る。


不治の病から始まり、病院の対応の悪さ、娘のこと、友達のご主人の愚痴・・・
どんどん話が飛ぶ。
そして、会話の端々に「ワタシはもう長く生きられへんから」と加える。

返答に困る。

「いえいえ、そんなことおっしゃらないでくださいよ。」

と言いながら、
(アタシ、誰やねん?)と激しく心で突っ込みを入れる。

そんな会話を数回繰り返すうちに
誠に申し訳ないけれど、さすがに、なんだかちょっと飽きる。
全くひどい話だよな。相手は不治の病なのに。

不治の病な話を聞き流しつつ、(ツタヤに寄ろうかな?)とか
考え始めるワタシ・・・


そんな中、最寄り駅に到着する。

ワタシ「あ、ワタシここで降りるんです。」

オバサンの話をぶった切って席を立つワタシに、
オバサンは「話せてよかったわ~、ありがとうね」と一言。


すごい自己嫌悪。ちゃんと話を聞けばよかった・・・
ワタシなんか終盤、ツタヤのことばっかり考えてたよ。


ワタシ「お身体、大切になさってくださいね」

と、お伝えして電車を降りる。(お詫びの気持ち8割)
自分に対しては適当でもいいけれど、
他人に適当なことをしちゃダメだと実感。
反省だ。


深く、深く、反省しつつ・・・
ツタヤに寄って帰りました。