仕事帰り、駅前で小学生の時に仲の良かったMさんに
ばったり会った。
中国雲南省の美容室で働いてそうな風貌だった。
ちょっとイカツイ。

久しぶりの再会が嬉しく、会話が弾む。
お互いの家族の健康状態などを気遣いつつ、近況を話す。

立ち話10分を越えた辺りで、Mさんはおもむろにタバコを吸い始めた。
なかなかの猛者に成長しているかつての友達に少しひるむも、
ワタシは何食わぬ顔で話しを続ける。

軽い立ち話を通り越し、懐かしい思い出話にまで会話は遡った。
自分が何組だったか、担任は誰だったか、
当時仲の良かった子が今は何をしているか、などなど
どうでもいい話はつきない。

Mさんがひとつの思い出話を始めた。

Mさん「ワタシ、○○先生のおかげで漢字好きになったからなぁ」

ワタシ「そうなんやー。・・・あれっ???」

意味がわかったようで、わからなかった。

例えば、先生の影響で
「歴史が好きになった」「数学が好きになった」っていうのは理解できる。
でも、漢字ってなんだそれ?漢字に好きも嫌いもあるの?

(やま)じゃなく(山)って書くのが好きってことか?

漢字は、一般常識だ。
むしろ逆に、漢字で(山)ではなく、平仮名で(やま)と書くことに
こだわるっていうなら分かるけど、山を山と書くのは普通だよな。

(薔薇)とか(檸檬)とか、詳しく憶えてるってことか?
いや、絶対知らないと思う。なぜか断言できる。

ワタシの思考が混乱する中、Mさんがとどめを刺す。

Mさん「ワタシ、今でも漢字好きやもんなぁ」

まだ、好きなんかい!!
あいづちに困る。

ワタシ「そっかぁ、漢字好きなんかぁ・・・いいやん。」

何がいいんだか。

Mさん「ほんまにあの先生良かったわ~」

Mさんは夕暮れの空を見上げながら
しんみり恩師への感謝の気持ちを空に放った。
ついでに、タバコもポイ捨てしやがった。