ワタシは、バラナシに天敵がいる。
あるゲストハウスのオーナーだ。
それは、初めてインドへ行った時に起こった。

ワタシは、夜、電気をつけっぱなしで寝る。
さっさと寝ればいいのだが、ワタシは布団に入ると
いろいろ考え事をしてしまい、余程疲れていない限り
寝付きが悪い。

考え事は、楽しい事を思い出してニコニコしたり、
死んだおばあちゃんを想いホロリとすることもある。
寝る前のワタシは、躁鬱病の如く情緒不安定だ。

それだけなら、電気を消したってかまわない。

でも、ワタシはどうしても電気を付けていたい。
お恥ずかしい理由だが、暗くなるとやたら怖い話を思い出すのだ。
今まで聞いてきた、数々の恐怖体験が脳裏をよぎる。
「トイレの花子さん」級の話でも思い出して怖くなる。

だから、一人で寝る時は、極力、電気をつけたい。
また、ドミトリーなど、他に人がいれば、真っ暗でも大丈夫だが
長期滞在だとドミトリーは疲れてくる。

そんな時、シングルルームを借りた。
で、案の定、電気をつけっぱなして寝ていたら、
そこのオーナーが次の日の朝、突然怒鳴り込んできた。

『アー ユー クレイジー?!』

まぁ、オーナーの気持ちも分かる。
電気代だって馬鹿にならないだろう。
ワタシにも申し訳ない気持ちはないこともない。

しかし、それにしたって、クレイジーはないやろー

悪いけど電気代高いから寝る時は消してね。
とかなら、
いやいや、こっちも悪かったよー
で消すよう注意する。

それが、クレイジーと捲くし立てすごい剣幕だ。
ワタシもブチ切れ、
『ワタシは金を払ってこの部屋を借りている。
ワタシが居ない時につけっぱなしな訳じゃない。
ワタシが部屋に居る時に電気をつけて何が悪いねん。
金払ってるやろ、ボケ。こんなゲストハウス明日出て行く!』
と言ってしまい、
その後、道であっても挨拶もしなくなった。
そして、ワタシのクレイジー話をその辺のアホなインド人に
言いふらされた。

それから約2年後------

もう、今となってはどうでも良い。
話し掛ける気は起きないが、怒ってもいない。
怒りは風化し、ただの思い出に変わった。

昨日、ネット屋でポンポンと軽く肩を叩かれた。
振り向くとなんと2年前喧嘩したオーナーだった。
日本へ行ったようで、かなり日本への憧れが強くなったご様子。
片言の日本語を交えつつ、日本の事を一生懸命話す。
その姿で風化どころか、完全に怒りは消えた。
日本の話をしながら、
家族は元気か?仕事はうまく行っているか?など聞く。
大喧嘩したことには一切触れず、奇妙におだやかな会話が続く。

最後に、
『また機会があったら、ゲストハウスに泊めてね』と言うと
『いつでも歓迎です』

関係修復だ。いっちょ上がりだ。
やっぱりどうでも良くなったとしても、喧嘩したままの人が
いるより、いない方がいいに決まっている。
そういう意味で、2年ぶりにワタシに話し掛けてくれたオーナーは、
ワタシより勇気があって、ワタシより大人だった。
今の晴れやかな気持ちは彼のおかげ。
とても感謝している。


まぁ、ただ単に喧嘩の事すっかり忘れて、
どっかで見た顔だなぁって話し掛けただけのような気が
しないでもないけど、まぁ結果オーライでヨシとすっか!