Pump and Dumpの実態

海外の大手メディア、ウォール・ストリート・ジャーナル(以下、WSJ)は8月6日、仮想通貨業界において、風説の流布などを含む「Pump and Dump(相場操縦行為)」が行われているとする記事を公開しました。

風説の流布とは、組織的なグループで事実とは異なる”虚偽の情報”を流すなどして、集団で価格を釣り上げる(or暴落させる)ことで価格操作を行い、不当に売り抜ける行為を指します。

株式市場では、厳格に規制されてはいるものの、このような相場操縦行為が後を絶ちません。19世紀からこのような誤認させるような悪質な情報が蔓延、世界恐慌の発端となった1929年のウォール街大暴落も、風説の流布など相場操縦行為の影響を受けていたと考えられています。

1990年後半から起きたドットコムバブルにおいても、悪徳投資銀行は、相場操縦行為を行い、大きな利益を上げたとされています。

その中でも、有名なのがハリウッド映画の”ウルフ・オブ・ウォール・ストリート”のモデルとなったJordan Belfort氏(以下、Belfort氏)でしょう。結果的に、彼は、1999年に相場操縦行為で証券詐欺を行い、34社に影響を与え、投資家に2億ドル(約220億円)の損害を与えたとして罪を認めています。

今回の報道では、相場操縦行為が仮想通貨業界でも行われているとWSJが指摘したことから、各コミュニティ内でも大きな話題となっています。

仮想通貨における相場操縦

WSJは、過去6カ月間に、相場操縦行為が121通貨で計175回行われたことを特定し、取引量は8.25億ドル(約920億円)に上ると記述。多くの人々が被害を被ったことを明かし、以下のようにコメントしました。

同様の悪徳グループは、他にも複数存在していると考えられ、数百〜数千人規模の人々が関わっている可能性もある。

報告書内では、世界最大規模の仕手グループとされる『Big Pump Signal』は、メッセージアプリTelegramにおいて74,000人以上のフォロワーを有し、昨年12月に作成されてから、すでに26回のPump(価格の人為的上昇)に関与し、2.2億ドル(244億円)相当の取引を行なったと明らかにされました。

グループ内では、「決行日、時間、取引所」が事前に通達され、時間と同時に”取引コイン”が発表される仕組みになっているとしています。

WSJは、「Big Pump Signal」によってターゲットにされた、当時ほとんど無名だった「CloakCoin」を例として挙げました。

CloakCoinは7月初頭、仮想通貨取引所Binanceにおいて価格を急騰したにも関わらず、取引所Binanceにおける他のBTCペアは、上昇の際にほとんど変動が見られなかったと記述されています。

一方で、『Big Pump Signal』のあるメンバーは、WSJのインタビューに以下のように答えました。

”目標額”に達するまで、メンバーは通貨を買い支えで購入し続けるよう促される。

しかし、実際は”目標額”に達することはほとんどない。結果的に、私はわずか30秒間で5,000ドル(約55万円)の損失を被った。

このようなクローズドなグループの情報を元に取引を行なっても、最も多くの利益を得るのは、取引通貨を事前に購入したグループの管理者なのです。

既述のウォール街大暴落やドットコムバブルも、一度失った市場の信頼を取り戻すのに長い時間を要しており、仮想通貨業界にとっても、ルールの不備や抜け穴を突いて”悪質なグループ”が暗躍するような現状は、決して好ましいものではないと言えるでしょう。