先ほどの駐車場まで戻ると、何か本の形をしたものが見える。あれが芥川の文学碑か?

 

 

そのとおりでした。

 

 

芥川龍之介は大正五年(1916)八月十七日から九月二日までこの一宮館に滞在。

そしてその時に、のちに妻となる塚本文さんにラブレターを出したのです。

2年前には吉田弥生さんへの失恋の痛手を癒すために一宮に、そして今回は結婚に向けて、

まさに芥川の恋愛における大きな転換期をいづれも一宮で。

 

芥川龍之介と久米正雄が滞在した一宮館離れを「芥川荘」として保存。

一宮関連の作品として『海のほとり』『微笑』のほかに、『蜃気楼』『玄鶴山房』が挙げられていますが、『蜃気楼』は大正十五年に湘南に滞在した時の物語で一宮のことはふと思い出した程度、

『玄鶴山房』にいたっては登場人物の実家がある「上総の漁師町」が出てくる程度で一宮の名前は出ず、さらに芥川の思い出が語られるわけではありません。

もちろん芥川自身は一宮に滞在した時のことを思い出しながらその風景をここに記そうとしたのかもしれませんが……

 

 

立派な庭です。奥へ奥へと案内板が誘う。

 

 

これが芥川・久米が滞在したところだ!

芥川龍之介のほうが偉大過ぎるくらいに名前を残してしまいましたが、久米正雄が忘れられている感が半端ない。

 

 

二人はここに腰かけて文学のことを語りあったのだろうか。

 

 

この長椅子で昼寝をしたこともあるのだろう。

 

ところで『微笑』はちくま文庫の芥川全集に収録されず、おそらく今は文庫で読むことは不可能と思われます。

ただし読めなくなってもさほど惜しくはない、作品というのも憚られるような話。

 

ある日、芥川と久米がいつものように海岸に行き、泳ぎ終わって宿に戻るところ。

久米が突然猛ダッシュした。何事かと芥川も追いかけるが、スポーツマンでもある久米は足が速く、芥川はあっという間に置いて行かれてしまった。

宿に戻ったが久米はいない。とりあえず芥川、大声で久米を呼んだ。しかし返事はあったが姿は見えず。

なんのことはない、久米は便所に行きたくなって大急ぎで戻っただけ。姿が見えないのは便所にいたからだ。

その久米が駆け込んだ便所はたぶんこの写真の左側、奥の扉。

 

 

さらに奥に、またしても碑が。

 

 

芥川龍之介文学碑。

碑面に彫られた字は読みにくかったためスルーで。

 

 

芥川龍之介が塚本文さんに送った手紙です。

 

こうして結婚し三人の男子に恵まれる文さんでしたが、新婚早々芥川の養母フキさんに理不尽に叱られ、

龍之介は浮気三昧、次男タカシは病弱(そしてのちに太平洋戦争で戦死)、など苦労は尽きなかったようです。

 

『海のほとり』では、芥川は少女二人組に関心を示していないのだが、

あの女たらしが目の前にいる女子たちにアプローチをかけなかったはずがない。

一方では文さんにラブレターを書いていながら、陰では何をやったか全くわからんのだ。