長崎から東京に来たとき、驚いたのは高層建物の街だった。

 

霞が関ビルは、既に首位の座からは追い出されていた。思い出してみると、その十数年前は都心の中心付近に霞が関ビルがポツンと建っていたような印象がありました。それよりも東京タワーの方が魅力的だった。でも私には東京タワーに登った記憶がない?最近記憶があやふや(笑)

 

人で驚いたのは、優秀な人がいるということだった。しかし十年ぐらい経つと、段々見えてくるものがあった。それは優秀な人と優秀そうに見えてそうでない人ということと、優秀には見えないけど、とんでもない能力を持っている人がいることに気づいたのです。

 

そこに入ったとき、面白い先輩がいた。

「こう、この方程式を解いてみて・・・」

と言って、

しんくん+たんくん-2ん

と書いたA4のペーパーを見せてくれた。

私は、即座に

「しんくたんく なんでしょう」と答えた。

「なんでわかったんだよ・・・」とその先輩は悔しそうにしていた。

 

彼からはいろいろなことを教えてもらった。

その中で、一番重要だったのは、

「報告書の書き方」でした。

 

彼は、ある日、私の前に二つの報告書を提示して、

「こう あんたなら、どっちの報告書を採用する?」

と質問した。

私は、一応二つの報告書を、少し時間をかけて読んでみた。

分厚い報告書は、きれいに製本され、500ページぐらいの立派な報告書という印象があったが、もう一つの報告書は30ページぐらいで、しかも両面に印刷されて多少貧弱な印象でした。

 

その厚みの薄い報告書には、最初の見開きに、結論と簡単な絵図が印刷されていた。

大まかに説明すると、会社の方針であるここ当面の出店計画を支持するものの、出店に伴うリスクの軽減について対応策等が具体的に書かれていた。

 

分厚い報告書は、

様々な統計の資料から出店計画の問題点を数多く指摘していた。もちろん他社の事例なども豊富に紹介されていたが、具体的にどうすればよいのかは、経営陣に任せているような印象があった。

 

「どう見ても、この薄いレポートがいいですね。どうすればよいかをかなり具体的に書いています。それになんといっても見やすいです。ぶ厚いのは報告書としては立派ですが、最後にどうすればよいかが会社任せになっていますね。これじゃ、どうすればよいのか分からないと思いますが・・・」

「こうもそう思うか。800万円という報告書だから、それなりの体裁は必要とは思ったものの、どう見ても、この薄い方がいいな。これ、入社3年目の金井さんが作ったものだよ・・・」

 

金井さんは、小柄でとても物静かな女性でした。目がきれいで、遠くから見てもその目だけがキラキラしているような印象がありました。一度だけ一緒に仕事をしたことがあったのですが、必要な時だけしか発言がなく、大人しいという印象の方が強かったように思います。

 

結局、金井さんの報告書を提出することになり、評価はどうなるのかなと思っていたのですが、それは一年半後になってやっとわかりました。依頼した会社の首脳陣が会社に訪れて、お礼を言って、次の仕事の依頼をしたことが分かりました。

 

でも、その金井さんもしばらくしてから社外の人と結婚して、会社を去っていきました。

日本の会社って、女性を大事にする習慣がないのではと思ったぐらいです。

 

明らかに優秀な女性の部下に、あまり有能とは言えない上司という組み合わせもあるのです。

それは傍で見ていても分かります。その上司は、部下に「私は偉いんだ・・・」と言うことを見せつけているように見えるのです。ちょっと滑稽に見えます。

 

ロスから来たデイビッドには、

「日本では、あんだけ優秀な女性をどうして幹部に登用しないの?」と何度か質問されました。

それに対して、「日本は、女性を冷遇している印象があるね。どうしたらいいのか・・・」としか答えられませんでした。

 

未だに「男尊女卑」の国なのですね。 いやですねー。

あの医学部の例だけでなく、日本は女性に厳しい国ですね。

女性を正しく平等に処遇すると、日本はもっと進展できると思うのですかが・・・

こんな風に思うのは、私だけではないのでは思っています。

 

そういう私も、そのシンクタンクは7年で辞めました。

 

 

最近になって思い出したことがあるのです。それは

「残業はしない」「他人の悪口は言わない」「正直であること」

というものでした。

勿論、残業は滅多にないものの、徹夜の作業は何度かありました。

他人の悪口は言わない、はとても重要なことでした。他人の悪口ばかり言っていた新人は、

「明日から来なくていい」と言われ、反論もできませんでした。

「正直であること」と言うことは「嘘をつかない」ということではなく、仕事に正直であることのようにも思えます。これらは「しんくたんくの教え」としてこころの中に残っています。

 

私は現在も研究職です。でも意外にのんびりと過ごしています。先輩のことばには「時間で仕事をするのではなく、中身で仕事する」というものがありました。つまり何時間仕事したというのではなく、どんなものを作り出した、考え出したのかと言うことが仕事なのです。