君島さんの話しは意外なものだった。
福島も初めて聞く話のようだった。あの君島さんはもらい子だった。両親には子供出来ずに、どこからか連れて来たという話しは両親とも冗談のように話していたが、真実はある夫婦から奪い取って来たというものだった。
君島の本当の両親は、人里離れた山奥に住んでいた。それには何かの理由があったが、しる由もなかった。両親とも小学校しか出ていなかった。特に父は病気がちで、母親が父と子供である君島の面倒を見ていたとのことだった。本当の両親は友人でもあった君島の育ての父に、時々お金を工面してもらっていた。
君島の本当の母は美人ではあったが、もちろん化粧などはしていなかった。それでも育ての父は交際を迫った。そのうちに借金が膨らみ、当時としてはかなりのお金になっていた。君島の本当の父は働けずアルコール中毒に陥った状態だった。

君島の育ての父はとうとう、本当の両親から子供を奪い育てた。当時の現状を知る人は止むを得ずそのようにしたと理解していた。三人とも共倒れになり、一家心中という事態もありえたからである。
君島が育ての両親の元に来て一年後、本当の両親は悲惨なことになっていた。嫉妬深かった本当の父は、育ての父との密会を事実と思いこみ、挙句の果てに母を殺し、自分も自殺してしまっていた。育ての父との密会はなかっという事実を知ってからの自殺だった。
育ての両親は本当の両親に関わる事実を全く君島に知らせなかった。君島が育ての両親の元に来たのは三歳になったばかりだった。兎に角、育ての両親は一生懸命に育てたようだった。不思議なことに、君島がもらわれて来てから、育ての父の商売は好転し、大儲けをした。不思議なくらいに儲かったそうである。
君島が13歳になった時、両親は地域では有名なお金持ちになっていた。この時、福島の両親が近くに引越しして来た。すぐに二人は仲良しになった。当時君島は気弱でおとなしい子だった。腕白坊主から時々ちょっかいを出され、困っていた。その腕白坊主から守ったのがヒーローでもある福島だった。
仲良しだったそんな福島を君島の父は可愛がった。そして色々なことを見せたり教えてくれた。当時君島の父は宝石関係の商売もしていた。今で言うところの金融業で儲けたことになる。当時はバブルの全盛期でもあった。
君島の父が福島に教えたのは「まず損をして、次に必ず儲けよ」というものだった。「商売は損から出発するもので、儲けは後から付いてくる」といつも言っていた。「15円で買ったものを100円以上で売るな、つまり儲けるな」等というものもあった。
君島の父は中学生の福島にそのようなことばかり教えていた。君島の父は福島を兄、君島を弟として兄弟のように扱っていた。現に福島は君島の家でご飯を食べることが多かった、時には君島の家に泊まって一緒に寝ていた。
そんな生活は2年も続いた。途切れたのは福島の父が転勤で移動したからである。その後の二人は20年ほどのブランクがあった。数年前、福島と君島は新宿で劇的な再会をした。
ハンサムで気の弱かった君島は相変わらず、女の子に持てていたが、職には就いていなかった。女の紐みたいな生活をしていたのである。ある理髪店で福島は君島に再会した。君島は店主ではあったが、働いてはいなかった。
実情を知った福島は君島に向かって「何やってんだ。ちゃんと働け」と怒鳴った。そんな福島の声に君島は度肝を抜かれた。「は、はい何でもします。働きます」と返事していたのである。人のよさそうな一緒にいた女は福島に向かって「うちの主人をいじめないでください」と言った。福島は苦笑いをしていた。
その時、福島は君島から別れた後のことを聞いた。
君島の父はしばらくはまじめな商売をしていたが、悪徳業者の罠にはまり、財産のほとんどを取られてしまった。その悪徳業者の女に入れこんでしまったのが原因だった。最初は数万円から始まったその女への貢物は、最後には数千万円単位にまで膨れ上がっていた。

最初のうちは、投資したお金が1年で倍近くになって戻ってきた。これに気をよくした君島の父は、次々に投資のお金を大きくしていった。最後には数億円単位の投資となっていた。そしてその悪徳業者と女は突然行方をくらました。警察にも相談したが、詐欺の常習犯であり、騙される方が悪いといった感じだった。
そんな中、君島の母、つまり育ての親は癌が見つかり、翌年には他界してしまった。その時には葬式のお金も困窮する状態だった。三流の大学は卒業したものの君島は職には就いていなかった。父に買ってもらった外車の三台を乗り回していたのである。お金のなくなって母親のいない家には帰りたくなかった君島は家出をして東京に来た。
職を変え、女を変え、友人を変え、居場所も転々とした。3年続いたのはタクシーの運転手だった。不景気でタクシーの売り上げが下がり、結局は転職した。コンビニの店員だった。歳を食っていた君島には安い報酬だった。女と同居しなければましな生活はできなかった。紐、つまり寄生虫みたいな生活が長く続いた。
君島は福島に会って目を覚ました。人が変わったように働きはじめた。同棲していた女はかなりビックリしていた。しかし急激に働き始めた君島は一年もしない間に肝臓や腎臓を悪くしてしまっていた。医者は急に働き出したとこによる急性の疲労が重なったものと診断していた。しばらくはのんびりと過ごすようにとのことだった。
福島は知り合いの不動産に頼んで小さな喫茶店を手に入れた。そしてそれを君島に貸すことにした。それがこの喫茶店であった。福島はその後5年間は君島を訪ねるようなことはなかった。この間福島は海外で仕事をしていたからである。

喫茶店に定住し同棲の女とうまくやってきた君島は年老いた父を田舎から連れてきた。しかしその父と同棲していた女との仲が悪く、とうとう女の方が飛び出してしまった。君島は悪いことをしたと今でも思っているが、しかし父をほっとくわけにはいかなかった。そして安心したかのように父は二年前にやはり癌で亡くなってしまった。父がこちらに来た時にはすでに手遅れの状態だった。
それから2年間、君島は普段どおりこの喫茶店を大事に営んできた。母に似て人当たりがよい君島はお客さんにも人気があった。お客の中には、結婚しようと誘ってくれる女性もいたが、結婚はしなかった。出でいった女に悪いと思ったからである。今でも君島は以前同棲していた女が帰ってくることを望んで待っている。そんな君島を福島は不憫に思ったことはなかった。いつも「しっかりしろ」と激励していた。
川浪竜太は手に汗をかいていた。君島の話に取り込まれていたようである。それに対して叶野未知はあっさりとした様子だった。「自業自得よ」と言いたげな顔をしていた。そんな叶野未知を見た福島は「あんただってこれからどうなるか分からないんだよ、未知ちゃんもいい相手を見つけなくちゃね」と笑いながらいった。
福島は君島の父に会いたかった。こんなに早く他界するとは思ってもみなかったからである。いつかはご恩返しをしたいと思っていたからだ。その分、福島は君島を見守っていこうと思った。福島は君島に対して、以前のように親分、子分の間柄になってしまっていた。福島は「こんな関係も悪くない」と一人で勝手に思い込んでいた。
福島も初めて聞く話のようだった。あの君島さんはもらい子だった。両親には子供出来ずに、どこからか連れて来たという話しは両親とも冗談のように話していたが、真実はある夫婦から奪い取って来たというものだった。
君島の本当の両親は、人里離れた山奥に住んでいた。それには何かの理由があったが、しる由もなかった。両親とも小学校しか出ていなかった。特に父は病気がちで、母親が父と子供である君島の面倒を見ていたとのことだった。本当の両親は友人でもあった君島の育ての父に、時々お金を工面してもらっていた。
君島の本当の母は美人ではあったが、もちろん化粧などはしていなかった。それでも育ての父は交際を迫った。そのうちに借金が膨らみ、当時としてはかなりのお金になっていた。君島の本当の父は働けずアルコール中毒に陥った状態だった。

君島の育ての父はとうとう、本当の両親から子供を奪い育てた。当時の現状を知る人は止むを得ずそのようにしたと理解していた。三人とも共倒れになり、一家心中という事態もありえたからである。
君島が育ての両親の元に来て一年後、本当の両親は悲惨なことになっていた。嫉妬深かった本当の父は、育ての父との密会を事実と思いこみ、挙句の果てに母を殺し、自分も自殺してしまっていた。育ての父との密会はなかっという事実を知ってからの自殺だった。
育ての両親は本当の両親に関わる事実を全く君島に知らせなかった。君島が育ての両親の元に来たのは三歳になったばかりだった。兎に角、育ての両親は一生懸命に育てたようだった。不思議なことに、君島がもらわれて来てから、育ての父の商売は好転し、大儲けをした。不思議なくらいに儲かったそうである。
君島が13歳になった時、両親は地域では有名なお金持ちになっていた。この時、福島の両親が近くに引越しして来た。すぐに二人は仲良しになった。当時君島は気弱でおとなしい子だった。腕白坊主から時々ちょっかいを出され、困っていた。その腕白坊主から守ったのがヒーローでもある福島だった。
仲良しだったそんな福島を君島の父は可愛がった。そして色々なことを見せたり教えてくれた。当時君島の父は宝石関係の商売もしていた。今で言うところの金融業で儲けたことになる。当時はバブルの全盛期でもあった。
君島の父が福島に教えたのは「まず損をして、次に必ず儲けよ」というものだった。「商売は損から出発するもので、儲けは後から付いてくる」といつも言っていた。「15円で買ったものを100円以上で売るな、つまり儲けるな」等というものもあった。
君島の父は中学生の福島にそのようなことばかり教えていた。君島の父は福島を兄、君島を弟として兄弟のように扱っていた。現に福島は君島の家でご飯を食べることが多かった、時には君島の家に泊まって一緒に寝ていた。
そんな生活は2年も続いた。途切れたのは福島の父が転勤で移動したからである。その後の二人は20年ほどのブランクがあった。数年前、福島と君島は新宿で劇的な再会をした。
ハンサムで気の弱かった君島は相変わらず、女の子に持てていたが、職には就いていなかった。女の紐みたいな生活をしていたのである。ある理髪店で福島は君島に再会した。君島は店主ではあったが、働いてはいなかった。
実情を知った福島は君島に向かって「何やってんだ。ちゃんと働け」と怒鳴った。そんな福島の声に君島は度肝を抜かれた。「は、はい何でもします。働きます」と返事していたのである。人のよさそうな一緒にいた女は福島に向かって「うちの主人をいじめないでください」と言った。福島は苦笑いをしていた。
その時、福島は君島から別れた後のことを聞いた。
君島の父はしばらくはまじめな商売をしていたが、悪徳業者の罠にはまり、財産のほとんどを取られてしまった。その悪徳業者の女に入れこんでしまったのが原因だった。最初は数万円から始まったその女への貢物は、最後には数千万円単位にまで膨れ上がっていた。

最初のうちは、投資したお金が1年で倍近くになって戻ってきた。これに気をよくした君島の父は、次々に投資のお金を大きくしていった。最後には数億円単位の投資となっていた。そしてその悪徳業者と女は突然行方をくらました。警察にも相談したが、詐欺の常習犯であり、騙される方が悪いといった感じだった。
そんな中、君島の母、つまり育ての親は癌が見つかり、翌年には他界してしまった。その時には葬式のお金も困窮する状態だった。三流の大学は卒業したものの君島は職には就いていなかった。父に買ってもらった外車の三台を乗り回していたのである。お金のなくなって母親のいない家には帰りたくなかった君島は家出をして東京に来た。
職を変え、女を変え、友人を変え、居場所も転々とした。3年続いたのはタクシーの運転手だった。不景気でタクシーの売り上げが下がり、結局は転職した。コンビニの店員だった。歳を食っていた君島には安い報酬だった。女と同居しなければましな生活はできなかった。紐、つまり寄生虫みたいな生活が長く続いた。
君島は福島に会って目を覚ました。人が変わったように働きはじめた。同棲していた女はかなりビックリしていた。しかし急激に働き始めた君島は一年もしない間に肝臓や腎臓を悪くしてしまっていた。医者は急に働き出したとこによる急性の疲労が重なったものと診断していた。しばらくはのんびりと過ごすようにとのことだった。
福島は知り合いの不動産に頼んで小さな喫茶店を手に入れた。そしてそれを君島に貸すことにした。それがこの喫茶店であった。福島はその後5年間は君島を訪ねるようなことはなかった。この間福島は海外で仕事をしていたからである。

喫茶店に定住し同棲の女とうまくやってきた君島は年老いた父を田舎から連れてきた。しかしその父と同棲していた女との仲が悪く、とうとう女の方が飛び出してしまった。君島は悪いことをしたと今でも思っているが、しかし父をほっとくわけにはいかなかった。そして安心したかのように父は二年前にやはり癌で亡くなってしまった。父がこちらに来た時にはすでに手遅れの状態だった。
それから2年間、君島は普段どおりこの喫茶店を大事に営んできた。母に似て人当たりがよい君島はお客さんにも人気があった。お客の中には、結婚しようと誘ってくれる女性もいたが、結婚はしなかった。出でいった女に悪いと思ったからである。今でも君島は以前同棲していた女が帰ってくることを望んで待っている。そんな君島を福島は不憫に思ったことはなかった。いつも「しっかりしろ」と激励していた。
川浪竜太は手に汗をかいていた。君島の話に取り込まれていたようである。それに対して叶野未知はあっさりとした様子だった。「自業自得よ」と言いたげな顔をしていた。そんな叶野未知を見た福島は「あんただってこれからどうなるか分からないんだよ、未知ちゃんもいい相手を見つけなくちゃね」と笑いながらいった。
福島は君島の父に会いたかった。こんなに早く他界するとは思ってもみなかったからである。いつかはご恩返しをしたいと思っていたからだ。その分、福島は君島を見守っていこうと思った。福島は君島に対して、以前のように親分、子分の間柄になってしまっていた。福島は「こんな関係も悪くない」と一人で勝手に思い込んでいた。
