「今日は何曜日だっけ?」と川浪竜太は叶野未知に聞いた。
「川浪さん、大丈夫?、今日は土曜日よ」
川浪竜太はやっと、正常な意識に戻ったようだった。今週はじめに精神科医のジョン鴨志田氏の病院に連絡し、土曜日の昼からの特別枠で診療してもらうことになっていた。そもそも川浪竜太が心療内科に行ってみようと思ったキッカケは、些細なことだった。
川浪竜太は一人で大きな屋敷に住んでいた。元々は祖母の家である。祖母は孫である川浪竜太を溺愛する程に可愛がっていた。亡くなる時の遺言にこの家を川浪竜太に譲ることが記されていた。祖母は数年前に亡くなっている。その時から川浪竜太は住み始めた。
その家のクローゼットは大きかった。川浪竜太はある日、クローゼットの中に見られぬ衣類があることに気付いた。スーツから、セーターから、シャツから、ネクタイから、靴下まで、自分の趣味には合わないものばかりだった。

川浪竜太は以前からそのことには気づいていたものの、あまり意識はしなかった。そしてある日、そのことに気付いた。「おかしい、この衣類は誰のものだろう」と考えた。川浪竜太はクローゼットの右側の部分を使用していたが、それらの衣類はクローゼットの左側にあった。
普段はこの左側を開けるようなことはしなかった。その日はクリーニングが大量に戻ってきた、右側部分だけでは収納できなくなって、左側を開けたのだった。見たことのない衣類、まず「誰のものなんだろう」と率直に考えた。それでもチャントした答えを出すこと出来なかった。
その他にも、不思議なことは数多くあった。いつのまにかコーヒーが出来ていたことや、自分が注文したことのない品物が届いたりもした。川浪竜太は不思議と思ったものの、あまり気にはしなかった。
「もしかして」と思って戸棚の中の届いた荷物の宛名書きの部分を見てみた。そこには、
「川浪竜太様」の文字と「川浪龍太様」の二つの名前が印刷されていた。川浪竜太はこれらの荷物は受け取ったものの、この名前の違いには気づかなかった。
整髪料も歯磨きもコップも・・・・川浪竜太が知らないものがいつの間にか増えていた。川浪竜太はそれに気づいてはいたものの、気にはしなかった。しかし気になりだすと、本当に気になり始めた。そして再びジョン鴨志田氏の病院に出向くことになった。川浪竜太は2年程前に不眠症になり、一度ジョン鴨志田氏の元を訪ねたことがあった。
・・・・・
「川浪さん、そのココア、美味しいでしょう。マスターの傑作なのよ」叶野未知は川浪に近づいて「その他は普通なんだけどね・・・」と小さな声で呟いた。「そうなんですか、このココアね初めての経験ですね。濃厚でやや甘くて、少しお酒も入っているようで、大変気に入っています」「そうでしょう。私なんか一カ月も待たされたのよ・・・」

川浪竜太はやっと普通の状態に戻ったようだった。顔色もよくなり、体中が温かくなったと感じた。言葉も普通にしゃべれるようになった。そしてやや眠たい気分だった。しかし、川浪竜太は急に目が覚めたようにしてしゃべった。
「ところで、叶野さん、二週間程前のことなんですが、確か月曜日の夕刻と思うのですが、叶野さんみたいな人に遭いましたよ。でもなんとなく地味で、別人なのかなと思いました。姿格好は良く似ていたのです。服装は普通のOLの着ている制服みたいだったですね・・」
「えっ、そうなんですか。この世の中には自分に似ている人が2,3人は居るということを聞いたことがあります。そうそう、そんな人達に遭遇すると死んでしまうというような噂もありましたね。怖いですね・・・・」
「やっぱり、違うのかもしれませんね。でも姿格好は本当に同じなんです」「それ、もしかして私だったりして・・・」「えーっ、そんなことはないでしょう。その人、今の叶野さんみたいに颯爽とはしてませんでしたよ。表情も明るくなかったし・・・・」
しかし叶野未知には思い当たる処があった。ウイークディと土日の未知はことごとく違うことを叶野未知は自覚していたからである。そのような変身を叶野未知の家の近所の人は気づいている人も居たが、それはほんの数人だった。殆どの人が別人か、姉妹と思っていたようである。
叶野未知にもあの特性ココアがやって来た。「未知さん、お待ちどう様、特別念入りに作ったからね・・・」「分かってます。それではいただきます・・・」「何か僕のココアと少しちがうね」と川浪竜太が聞いた。「あっ、私のには少しだけチョコレートが入っているの・・・だから色が少し濃いめなのよ」とあっさりと説明した。川浪竜太は、それには納得した。
しばらくして「叶野さん、僕の顔に何かっいているの?」と川浪竜太は聞いた。「うーん、そう云えばね、私も川浪さんに似た人に遭ったように感じるの、だけど直ぐに思い出せないの・・誰だっけ・・・」「えーっ、僕のそっくりさん?」と川浪竜太は奇妙な声を上げた。
叶野未知はその声の変な感じには気付かなかった。
「他人のそら似って不思議ね・・・」「この世の中には自分に似ている人が2,3人は居ると言うしね・・・」「確かに見たことがあるんだけどね、思い出せないわ・・・」
その時になって川浪竜太は自分が冷や汗をかいているのに気付いた。もしかしたら。叶野未知はもう一人の自分であるカメレオン龍太に遭ったことがあるのかも・・・と思ったからである。そうなると自分の正体がばらされるように感じた。「やばいやばい」と内心は気が気ではなかった。川浪竜太はこの話題から早く抜け出ようと考えていたが、叶野未知はしつこく追及してくるように感じた。
マスターは暇だったのか、カウンターの中の椅子に腰かけて何かの本を読んでいた。入口の男の人に気づいて「いらっしゃい、えっ、福島さんじゃないですか、久しぶりですね・・・」「やあー、君島君、元気かい。その頭、相変わらずだね」「あっ、この頭ね、福島さん、この髪の毛、前にも言いましたけど、天然なんですよ」「なかなか良いウエーブだよ。理容室に行く必要はないから良いよね」「とんでもない、理容室、行きますよ。それも特別料金を取られるんです。やりにくい頭ということらしいのですが、納得はしてませんよ・・」
お店の奥の方にやってくる福島を見て「あっ、福島さん」と川浪竜太も叶野未知も同時に声を上げた。「えっ、叶野さん、福島さんを知っているの・・・」「なんで福島さんを川浪さんは知っているの・・・」とお互いに顔を見合わせた。

「おや、川浪君に叶野君じゃないか。君達、知り合いなの・・」と福島の方がビックリしていた。福島は川浪君と叶野君の席に座った。三人はお互いに、顔を見回して笑った。「いやーっ、びっくりしたね、それにしても奇遇だね・・」
そこにマスターがやって来た。「君島君、君も座りたまえ」といってマスターを川浪君の隣に座らせた。「君島君、喫茶店でもビール位はあるだろう。それ持って来てくれない」と聞いた。マスターはびっくりしたようにして「はい分かりました。福島さんのお願いだからしょうがないね、出しましょう。良い奴を・・」
しばらくして、マスターは4つのコップと4つのプレミアムビールの缶を持って来た。マスターが品妙な顔をして、四人分のビールを整えた。見事な泡が出来ていた。「それでは、乾杯??ま、なんでもいいや、思いがけない再会を祝って・・」と大声を上げた。もちろんお店の中はこの4人だけだった。それはみんなにとって都合のよい状態だった。
夕方に近い時間ではあったが、ビールは格別に美味しかった。マスターは枝豆とクラッカーとチーズを用意してくれていた。もちろん、ピーナツもあった。カシュナッツにアーモンド・・それにポテトチップスと豪華だった。
「福島さん、、マスターとお知合いなんですね」と叶野未知はしみじみと聞いた。「私達は小さいころからの友達だよ、俺が大将で彼が子分なんだけど、その頃は、彼の家は大金持ちで、私の家は貧乏だったよ。だから、君ちゃんにはだいぶお世話になったんだよ。でもその分、悪い奴らから君ちゃんを守ってやんたんだよ・・」
マスターはニヤニヤしながら聞いていた。「俺は君ちゃんのお父さんにダイヤモンドを見せてもらったんだよ、君ちゃんは興味を示さなかったようで、光るものに興味のあった私を可愛がってくれたんだよ。いいお父さんだったね。優しくて、面白くて、気さくで、お金持ちだけど、威張ってはいなかったね、どちらかというと謙虚な人だったね」
「そんな父も二年ほど前に亡くなりました。亡くなる前に福島さんの話しをしてましたよ」「あいつはきっとどこかで大成している。遭ったら、頑張れと伝えてくれと言ってました」
「お父さん、亡くなったの・・それは知らなかった・・」
福島は残念そうな顔をしていた。叶野未知も川浪竜太もそんな福島の表情を見るのは初めてだった。二人ともいつもの福島さんと違うと感じた。以前と違ってどこか人間を帯びていた。それて優しい表情にも気づいていた。
マスターはポツリポツリと自分の過去を喋り始めた。その話にはみんな唖然とするばかりだった。福島でさえ、そんな話は初めてだった。その話は、お客が来るまで一時間近く続いた。川浪の手は汗をかいていた。
「川浪さん、大丈夫?、今日は土曜日よ」
川浪竜太はやっと、正常な意識に戻ったようだった。今週はじめに精神科医のジョン鴨志田氏の病院に連絡し、土曜日の昼からの特別枠で診療してもらうことになっていた。そもそも川浪竜太が心療内科に行ってみようと思ったキッカケは、些細なことだった。
川浪竜太は一人で大きな屋敷に住んでいた。元々は祖母の家である。祖母は孫である川浪竜太を溺愛する程に可愛がっていた。亡くなる時の遺言にこの家を川浪竜太に譲ることが記されていた。祖母は数年前に亡くなっている。その時から川浪竜太は住み始めた。
その家のクローゼットは大きかった。川浪竜太はある日、クローゼットの中に見られぬ衣類があることに気付いた。スーツから、セーターから、シャツから、ネクタイから、靴下まで、自分の趣味には合わないものばかりだった。

川浪竜太は以前からそのことには気づいていたものの、あまり意識はしなかった。そしてある日、そのことに気付いた。「おかしい、この衣類は誰のものだろう」と考えた。川浪竜太はクローゼットの右側の部分を使用していたが、それらの衣類はクローゼットの左側にあった。
普段はこの左側を開けるようなことはしなかった。その日はクリーニングが大量に戻ってきた、右側部分だけでは収納できなくなって、左側を開けたのだった。見たことのない衣類、まず「誰のものなんだろう」と率直に考えた。それでもチャントした答えを出すこと出来なかった。
その他にも、不思議なことは数多くあった。いつのまにかコーヒーが出来ていたことや、自分が注文したことのない品物が届いたりもした。川浪竜太は不思議と思ったものの、あまり気にはしなかった。
「もしかして」と思って戸棚の中の届いた荷物の宛名書きの部分を見てみた。そこには、
「川浪竜太様」の文字と「川浪龍太様」の二つの名前が印刷されていた。川浪竜太はこれらの荷物は受け取ったものの、この名前の違いには気づかなかった。
整髪料も歯磨きもコップも・・・・川浪竜太が知らないものがいつの間にか増えていた。川浪竜太はそれに気づいてはいたものの、気にはしなかった。しかし気になりだすと、本当に気になり始めた。そして再びジョン鴨志田氏の病院に出向くことになった。川浪竜太は2年程前に不眠症になり、一度ジョン鴨志田氏の元を訪ねたことがあった。
・・・・・
「川浪さん、そのココア、美味しいでしょう。マスターの傑作なのよ」叶野未知は川浪に近づいて「その他は普通なんだけどね・・・」と小さな声で呟いた。「そうなんですか、このココアね初めての経験ですね。濃厚でやや甘くて、少しお酒も入っているようで、大変気に入っています」「そうでしょう。私なんか一カ月も待たされたのよ・・・」

川浪竜太はやっと普通の状態に戻ったようだった。顔色もよくなり、体中が温かくなったと感じた。言葉も普通にしゃべれるようになった。そしてやや眠たい気分だった。しかし、川浪竜太は急に目が覚めたようにしてしゃべった。
「ところで、叶野さん、二週間程前のことなんですが、確か月曜日の夕刻と思うのですが、叶野さんみたいな人に遭いましたよ。でもなんとなく地味で、別人なのかなと思いました。姿格好は良く似ていたのです。服装は普通のOLの着ている制服みたいだったですね・・」
「えっ、そうなんですか。この世の中には自分に似ている人が2,3人は居るということを聞いたことがあります。そうそう、そんな人達に遭遇すると死んでしまうというような噂もありましたね。怖いですね・・・・」
「やっぱり、違うのかもしれませんね。でも姿格好は本当に同じなんです」「それ、もしかして私だったりして・・・」「えーっ、そんなことはないでしょう。その人、今の叶野さんみたいに颯爽とはしてませんでしたよ。表情も明るくなかったし・・・・」
しかし叶野未知には思い当たる処があった。ウイークディと土日の未知はことごとく違うことを叶野未知は自覚していたからである。そのような変身を叶野未知の家の近所の人は気づいている人も居たが、それはほんの数人だった。殆どの人が別人か、姉妹と思っていたようである。
叶野未知にもあの特性ココアがやって来た。「未知さん、お待ちどう様、特別念入りに作ったからね・・・」「分かってます。それではいただきます・・・」「何か僕のココアと少しちがうね」と川浪竜太が聞いた。「あっ、私のには少しだけチョコレートが入っているの・・・だから色が少し濃いめなのよ」とあっさりと説明した。川浪竜太は、それには納得した。
しばらくして「叶野さん、僕の顔に何かっいているの?」と川浪竜太は聞いた。「うーん、そう云えばね、私も川浪さんに似た人に遭ったように感じるの、だけど直ぐに思い出せないの・・誰だっけ・・・」「えーっ、僕のそっくりさん?」と川浪竜太は奇妙な声を上げた。
叶野未知はその声の変な感じには気付かなかった。
「他人のそら似って不思議ね・・・」「この世の中には自分に似ている人が2,3人は居ると言うしね・・・」「確かに見たことがあるんだけどね、思い出せないわ・・・」
その時になって川浪竜太は自分が冷や汗をかいているのに気付いた。もしかしたら。叶野未知はもう一人の自分であるカメレオン龍太に遭ったことがあるのかも・・・と思ったからである。そうなると自分の正体がばらされるように感じた。「やばいやばい」と内心は気が気ではなかった。川浪竜太はこの話題から早く抜け出ようと考えていたが、叶野未知はしつこく追及してくるように感じた。
マスターは暇だったのか、カウンターの中の椅子に腰かけて何かの本を読んでいた。入口の男の人に気づいて「いらっしゃい、えっ、福島さんじゃないですか、久しぶりですね・・・」「やあー、君島君、元気かい。その頭、相変わらずだね」「あっ、この頭ね、福島さん、この髪の毛、前にも言いましたけど、天然なんですよ」「なかなか良いウエーブだよ。理容室に行く必要はないから良いよね」「とんでもない、理容室、行きますよ。それも特別料金を取られるんです。やりにくい頭ということらしいのですが、納得はしてませんよ・・」
お店の奥の方にやってくる福島を見て「あっ、福島さん」と川浪竜太も叶野未知も同時に声を上げた。「えっ、叶野さん、福島さんを知っているの・・・」「なんで福島さんを川浪さんは知っているの・・・」とお互いに顔を見合わせた。

「おや、川浪君に叶野君じゃないか。君達、知り合いなの・・」と福島の方がビックリしていた。福島は川浪君と叶野君の席に座った。三人はお互いに、顔を見回して笑った。「いやーっ、びっくりしたね、それにしても奇遇だね・・」
そこにマスターがやって来た。「君島君、君も座りたまえ」といってマスターを川浪君の隣に座らせた。「君島君、喫茶店でもビール位はあるだろう。それ持って来てくれない」と聞いた。マスターはびっくりしたようにして「はい分かりました。福島さんのお願いだからしょうがないね、出しましょう。良い奴を・・」
しばらくして、マスターは4つのコップと4つのプレミアムビールの缶を持って来た。マスターが品妙な顔をして、四人分のビールを整えた。見事な泡が出来ていた。「それでは、乾杯??ま、なんでもいいや、思いがけない再会を祝って・・」と大声を上げた。もちろんお店の中はこの4人だけだった。それはみんなにとって都合のよい状態だった。
夕方に近い時間ではあったが、ビールは格別に美味しかった。マスターは枝豆とクラッカーとチーズを用意してくれていた。もちろん、ピーナツもあった。カシュナッツにアーモンド・・それにポテトチップスと豪華だった。
「福島さん、、マスターとお知合いなんですね」と叶野未知はしみじみと聞いた。「私達は小さいころからの友達だよ、俺が大将で彼が子分なんだけど、その頃は、彼の家は大金持ちで、私の家は貧乏だったよ。だから、君ちゃんにはだいぶお世話になったんだよ。でもその分、悪い奴らから君ちゃんを守ってやんたんだよ・・」
マスターはニヤニヤしながら聞いていた。「俺は君ちゃんのお父さんにダイヤモンドを見せてもらったんだよ、君ちゃんは興味を示さなかったようで、光るものに興味のあった私を可愛がってくれたんだよ。いいお父さんだったね。優しくて、面白くて、気さくで、お金持ちだけど、威張ってはいなかったね、どちらかというと謙虚な人だったね」
「そんな父も二年ほど前に亡くなりました。亡くなる前に福島さんの話しをしてましたよ」「あいつはきっとどこかで大成している。遭ったら、頑張れと伝えてくれと言ってました」
「お父さん、亡くなったの・・それは知らなかった・・」
福島は残念そうな顔をしていた。叶野未知も川浪竜太もそんな福島の表情を見るのは初めてだった。二人ともいつもの福島さんと違うと感じた。以前と違ってどこか人間を帯びていた。それて優しい表情にも気づいていた。
マスターはポツリポツリと自分の過去を喋り始めた。その話にはみんな唖然とするばかりだった。福島でさえ、そんな話は初めてだった。その話は、お客が来るまで一時間近く続いた。川浪の手は汗をかいていた。
