「いい加減なことを言わないでください」と川浪竜太はドクター・ジョン鴨志田氏に言った。「川浪君、私はいい加減なことは言っていないよ。チャント私の話しを聞きたまえ」川浪竜太はむかついた顔をやや引きつらせながら、立ち上がった体を椅子に座って戻した。

「川浪君、君が書いた文字だけでは分からないんだよ。ほれ!、カメレオン龍太が書いたものと、違うだろう」「先生、それはカメレオン龍太が別人だということでしょう」「いやいや、早合点しなさんな。同じ人でも、別人格では文字も異なるんだよ・・・」

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「川浪君、うちで取ったビデオがあるから、それを見たら私の言っていることが理解できると思うよ」と言って「安藤さん、あのビデオテープを再生してください」と看護婦に向けて言った。背の高い安藤さんという看護婦は、そっさく、テレビにある映像を映し出した。

「川浪君、ここに座っているのは誰かね」「先生、見ればわかるでしょう。私に決まっているじゃないですか」「川浪君、それじゃこの音声を聞いてみてくれ」といって音声を大きくした。そこにはしわがれた男の人の声が聞こえて来た。

「先生、この声は私ではありません。先生、ビデオに何か細工をしたでしょう」と川浪は食い下がった。「とんでもない、そんなことは一切していませんよ。この映像はあなたの、川浪さんの映像です。でも本人はカメレオン龍太と言っているのです」

川浪龍太はドクター・ジョン鴨志田氏の言っていることが分からなかった。というようり理解できなかった。「この映像はおかしいですよ。ここに映っているのは私のようだけど私には記憶がありません。先生は私を騙そうとしているのではありませんか。そんな冗談はよしてください」

「川浪竜太さん、これはれっきとした事実なんです。あなた、つまり川浪竜太さんとカメレオン龍太さんは同一人物なんです。それを川浪竜太さんも、カメレオン龍太さんも気づいていないんです」

しばらく沈黙の一時が過ぎて行った。「先生、私はカメレオン龍太さんと言う人は全く知らないのです。ここに写っているのは確かに私です。でも私達は双子と言う可能性はないのですか」「そのことについては、最初の頃、私達も双子ではないかと思っていたのです。でも、顔のほくろの位置、耳にあるほくろの位置は全く同じなんです。こんなことは同一人物でないと双子ではありえないのです」

川浪竜太は意気消沈した様子だった。そして小さな声で言った「・・・先生、私はどうすればいいのですか・・・」「川浪竜太さん、まずこの事実を認めることが大事です。そこからしかstartできないのです・・・」

「先生、それた私の体の中に、カメレオン龍太と言う人が居るということですか」「二重人格障害ともいえるものなんです。お互いに、異なる人格の存在を知らないのが普通なんです。結局は、鏡でもダメ、映像を録画して、それをお互いに見て確認するほかに方法がないのです」

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「と言うことは、カメレオン龍太に対しても、今日のようなことを説明するということですか」「さすがに川浪竜太さんは頭が良い。そのとおりなんです。幸いカメレオン龍太さんも私のところに通院しているのです。これは偶然かもしれませんね」

「先生、治療というのはどのようにするんですか」「まだ詳しいことは言えませんが、二重になった人格を統合するという治療ということになります」「先生、そんなことが出来るんですか」「元々一人の人格が二つに分かれたのですから、一人にすることは不可能ではないのですが、でもそんなに簡単ではないのです」

「つまり、どちらの人格に寄せるのかということが重要になります。あなたつまり川浪竜太さんとカメレオン龍太の家族の説明を事実と比較すると、川浪竜太さんの説明が辻褄が合うのです。つまりカメレオン龍太さんの家族の説明は作られたものなんです」

川浪竜太は、ドクター・ジョン鴨志田氏の説明を聞く他に手がなかった。

「二重人格の場合、状況が良くなければ多重人格の形成が進むのです。川浪竜太さんの場合、それが長年、二重人格のままで来たということなんです。川浪竜太さんを取り巻く環境が良かったのか、誰か川浪竜太さんの人格を見抜いて、多重人格にさせないようにしたとしか考えにくいのです。でもこれらは精神科医としての高度な知識が必要です」

「川浪竜太さん、これからの治療はカメレオン龍太さんを川浪竜太さんに統合することによって達成します。その為に私達はプロジェクトを組んで対応します。私の他にあと二人のアドバイザーを用意して対処したいと思います。だから安心してください」

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病院を出た川浪竜太は、ひどく疲れた自分を意識せざるを得なかった。自分の中に別の人格が存在すること自体、信じられないことであるが、ビデオに映っているのは明らかに自分だった。しかしその声、その筆跡も違うものであった。顔や耳のほくろは全く同じ位置であった。まぎれもなく、カメレオン龍太という人物は自分、つまり川浪竜太と認めざるを得なかった。

川浪竜太はすぐに近くの喫茶店に入った。初めての喫茶店だった。
「お客さん、顔色が悪いけど大丈夫ですか」とマスターらしき男の人に声をかけられた。自分ではそんな顔になっているとは思ってもみなかった。川浪竜太はお店の奥の方に席に座りこんだ。

ちょっと太めの女の子とがお水を持って来た。「ガチッ」という耳障りな音が川浪竜太の顔を益々暗くした。「お客さん、何んにします」とぶっきらぼうな声だった。「すみません。ちょっと考えさせてください」と言ったら、その女の子はいそいそと帰って行った。

しばらくして「お客さん、何にしますか」と今度はあのマスターの男性がやって来た。例の女の子とは帰り支度を始めていた。川浪竜太はやっとあの女の子が不機嫌だったことを理解した。それに比べてこのマスターの愛想のいいこと・・・・

「すみません。温かいココアをお願いします」「お客さん、このお店特性のココアがあるんです。100円高めで480円ですが、今のお客さんにはピッタリなんですが、いかがですか」と聞いた。川浪竜太はすぐさま「それにします。それください」と返事した。

「ありがとうございます。しばらくお待ちください」といってマスターはカウンターの中に消えた。川浪竜太はやっと落ち着いた。外の景色を見る余裕も出てきた。しばらくしてあのマスターがその特性のココアを持って来た。

「お客さん、まず飲んでみてください。元気がでますよ」といって帰って行った。川浪竜太は少し冷めるのを待って飲んでみた。ココアに牛乳に、卵に砂糖にその他蜂蜜みたいな濃厚なココアだった。不思議なことにこのココアを飲んだら、体が温まり、すぐに元気が出て来た。川浪竜太は自分でも不思議だった。モリモリと力が湧いてくる感じだったのである。

カウンターの方を見てみると例のマスターはニヤニヤしながらお店の外の景色を見ていた。突然、マスターが「いっらしゃい、久しぶりだね。元気だった」と声を上げた。そこには背の高いスタイルのいい女の子が立っていた。「マスターも元気そうね、今日は近くに来たので寄ってみたの。例のあのココアはある?」とマスターに聞いた。

「あたぼうよ」とマスターが返事した。その女の子は段々と川浪竜太の方に近づいてきた。そして一つ隣の席に座った。そして川浪竜太の方に顔を向けた。「あっ、川浪さんでしょう。なんでこんなところに居るの?」とびっくりしたような声を上げた。

「あっ、あの時のえっと、叶野さんですね」と川浪竜太もすぐに気づいた。「川浪さん、それ特性のココアでしょう。なんでそのココアを飲んでいるんですか」と叶野未知は聞いた。川浪竜太は返事に困ってしまった。

「叶野さんのお知り合いだったの」とマスターが声をかけた。「お客さんが元気なかったので、あの特性のココアを差し上げたんです」と言った。「マスター、ずるい、私なんか一カ月も待たされたのに、川浪さんは今日来て特性のココアを作ってもらったんでしょう。なんか、ずるい・・」と言って、マスターの方を見た。

「ごめんごめん、それでも叶野さんのお知合いなんでしょう」と笑っていた。「川浪さん、そのココア美味しいでしょう」とココアを覗き込むようにした言った。「今一口飲んだだけなんです。まだ味わっていないんです」と言った。その返事に叶野未知は笑って「ごめん、ゆっくり味わって飲んでください。川浪さんそっちの席に来ていい」と聞いた。

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「もちろんです。どうぞ・・」と言った。叶野未知は長い脚をひるがえして川浪竜太の席に着いた。そして川浪竜太を見てニコっと笑った。