キキが本に夢中になったのはNHKのラジオ番組が原因だった。テレビの時代にラジオとは少し変ではあるが、田舎の親戚に一人で旅行した時のことである。ラジオしかなかったので仕方なくスイッチを入れてみた。

童話で不思議な鹿の話であった。うとうととしながらも、ラジオの声や音ははっきりとキキの中に入ってきた。親子の鹿が離れ離れになりながらも数年後運良く再会した時、子供の鹿はたくましく成長していて、母親もわが子とは思えなかったほどである。

再会後、子鹿はいろいろなことを学び、いろいろな鹿との交流があり、人との関係もあり、その人が大事にしてくれたことを母鹿に話した。子鹿が懸命だったのは、いろいろと勉強したことであった。いろいろなことに疑問を持ち、いろいろとやってみたことには、何かを食べて生きている必要があった訳で、必然的なものであることを子鹿は身をもって体験したのである。

キキはその時、無性に本が読みたくなった。ところが近くには何もない。あるのも二日前の新聞しかない。学校ではあんなにたくさん本があるのに、ここでは本がない。何か読みたい。何でもいいから読みたい。

キキは田舎から帰ったらすぐに本を読み始めた。母親は怪訝そうに見ていたが、どうせ三日坊主だろうと思っていてた。一週間たっても、一ヶ月たったもキキは本を読み続けた。家の本に飽きたら、近くの図書館に行って本を読んだ。それもいろいろな本である。読みたいと思った本から読んだ。

本を読んでいるうちに、自分が発言している言葉に変化があることを気づいた。話しことばが以前よりも流暢で分かりやすくなっていた。母親が何回もキキの話を聞く必要もなくなった。三ヶ月たった時には、自分でもなんとなく大人になったような感覚を感じていた。

大きな変化は、舞台劇などで、役者になることが恥ずかしいとまったく思わなくなったことである。以前は不思議と役者になってものを言うことにためらいがあり恥ずかしかった。うそをついているような感覚もキキは感じていたのである。

ある日マンガを読んだ時、大きな発見があった。マンガのストーリーが分かるようになっていたのである。思ったとおりの展開にキキはまんがの面白さから少し開放されたように感じた。

少し大人になったように感じたのである。ふふ、大人・・・

(つづく)