仕事も一段落。
少し遠くに視点を飛ばしてみる。




暗い高速道路を、ひたすら西に車を走らせる。
都心から離れる方へ進むときは、1時間も走れば高速道路といってもほんとうに真っ暗な視界にたどり着く。
数キロ先からでも木々が茂るようすが明らかに見えた昼間の山々は、この時刻になると、稜線を挟んでわずかなコントラストだけが感じられる黒の世界にしか見えなくなる。

2時間ほど走ったところで、路肩に車を止めて、ハンドルに上半身をもたせかけ、首をちょっとだけ捻ってフロントガラスから空を見上げる。
雲の流れも分からないくらい空が暗い。


車内には音楽が流れていた感触がほんのちょっと残る。
実際には音楽なんて空間には残らないので、あくまでもそれは心の中の残像に過ぎないが、その残像が、戻って来ない音ヘの寂しさと、心の中で再び組み立てられる聴覚の記憶をもたらしてくる。



手に入れたから、っていって、手放せないものはない。
それに、手放すことは切ることだから、簡単にできる。
そんなことはしたくない。
ほんのちょっとだけ離れてみて、眺めてみることはできるだろう。
遠くから見れば、少しくらい気が楽になるだろう。
だから、ちょっとだけ離れてみた。





と、あの人が考えていてくれて、空を見上げていてほしいな。