コーラスのトラに行って意地悪された話をします(何年も前の話です)。 


 ところで『トラ』とはエキストラのことで、コーラスのトラと言うと一般的に、既存の合唱団員に混ざって本番舞台で歌う、プロの歌い手のことを言います。 


数年前のある日、某団の代表者の方から電話がかかってきて、ソプラノのトラの仕事の依頼を頂きました。本番まで数日しかなかったため(直前の仕上がりに不安を感じて急遽依頼してきたみたい)、頑張って譜読みをして、当日現地に赴きました。

 

団員のほとんどの方は温かく迎え入れてくれたんですが、中にはそうでない方もいました。
あからさまに「部外者が何しに来たの?」とか「来なくて良かったのに…」などと言われたり、無視されたりしました。 


まあ団員も大勢居て一枚岩じゃないし、そういうこともあるよなー、と粛々と仕事をこなすつもりでいたんですが、いざ着替える段になって、私の衣装が無い! なんと衣装(ブラウス)まで隠されてしまったんです。

 

私はあくまでトラで正式団員じゃ無いため、自分の衣装というのは持っていません。

それで、黒のロングスカートは自前のものを持って行ったんですが、ブラウスは余っている他の方の分を借りることになっていました。

 

その借りるはずだったものが失くなってしまったので、本番直前にちょっとした騒ぎになりました。

 

「どうしよう。このままでは石川さんが出られない……!」 


代表の方は狼狽えて泣きそうな顔になってしまいました。

 

「心配しないで。黒のロングスカートはあるので、上は私服で出ます。ちょっと1人だけ色が違うなんて、大した問題じゃないですよ。お客さんにはあの人衣装を忘れたと思われるくらいです」


実際無ければそうすれば良いと思ったので、私は努めて明るく言いました。

そうしたら、団員の方々も徐々に落ち着いて「それで良い」ということになり、出演出来ないという事態は避けられることになりました。

 

が、その後なぜかどこからかブラウスが出て来て、結局私も同じ衣装で出演することが出来たんですが、あれは何だったんだろうな。

 

 私(トラ)が気に入らないのか何なのか分かりませんが、本番直前に自分の団体を動揺させるなんて、ほんと良くない。 


 良い子は絶対真似しちゃダメだぞ!