呪いの本を書くことにあたり、呪いについて調べているうちに、自然と見えてきた事実がありました。
政権争いに用いられる呪いもありますが、それよりも興味深く感じたのは、一般の人々が行ったおまじない的な呪いの儀式です。
儀式らしいものもあれば、これだけでいいのかと思うくらいにお手軽なものまでいろいろありました。
江戸の遊郭に伝わる、意中の人を振り向かせる呪いや、ほかの女に寝取られないようにする呪いが多く残されているようです。
そこだけを切り抜いてしまうと、「なんだ、色恋沙汰の下世話な呪いなんだな」と思う方もいるかもしれませんね。
でも当時は、人さらいが子どもをさらったり、親が子を売り飛ばす時代でした。
買い取られたあとに、子守り娘や小間使いとして奉公し、場合によっては、様々な虐待を受けていたこともあるでしょう。
そして、年頃になると、遊郭に売り飛ばされて、死ぬまでそこで働かされてしまうのです。
脱走を企ててうまくいけばいいですが、見つかると厳しく罰せられます。
自由を取り戻す唯一の方法は、やさしい旦那に見初められて、見受けされることだったのです。
そりゃあ、呪いますよね。
呪うことでしか、抵抗できなかったのです。
単純に好きな人と結ばれたい。
略奪愛を成功させたい……といったことではなく、人生のすべてを呪いに託していたのでしょう。
本当に切なく、悲しい人生で身を滅ぼされた方がたくさんいたのだと思います。
一縷の望みとなった「呪い」が、どれだけの人に効いたのかはわかりませんが、信じて呪うという行為そのものが救いになっていたのかもしれません。
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