私はとうとう殺した。
必死だった。
相手も必死だった。
殺るか、見逃がすかの二者択一。
見逃したほうがラクなことは承知だ。
だが、再会したらどうなるのかと考えると、今しかないと思えた。
これは、決して簡単に済まされることではない。
1つの命がかかっているからだ。
おとなしく命を差し出すはずもなく、逃れるためなら、どんなことでもするだろう。
頭上に響く羽音……
何かがいるという気配……
部屋の上部を見渡してみると、真っ白な天井に黒光るアイツLが
きゃーーーー
思わず叫び、部屋を飛び出した。
しかし、このまま見逃していいはずがない。
高鳴る心臓……
見開いた瞳……
茫然と対峙する敵……
冷静になれ お前(自分)なら殺れる
殺れ
そんな心の声が聞こえた。
だが、私は丸腰だ
殺虫剤は蚊取り線香しかなく、敵は天井だ。
トレーニング用のボールをぶつけるか
いや、そんなことをしたら、ボールがバウンドして敵を見失うかもしれない。
殺虫剤ではなくても、殺虫剤のふりをして他のスプレーをかければ、抑止力になり、うまくいけば動きを封じて、落下させることができるのでは
キッチンから持ち込んだ除菌スプレーを噴射……届かない
さらに持ち込んだヒーリングスプレー……届かない無駄な癒し
さらに持ち込んだ消臭除菌スプレー……届いた
目論み通り落下(飛び降りた?)して大慌てする敵だが、このあと、どんな手段で息の根を止めればいいのだろう
右往左往する中、新聞紙を手にした。
ロール状にして叩くが、湿気でパワーが小さい……
でもこれしかない。生きて帰すわけにはいかないのだ
新聞連打で敵の動きが止まった。
ヘッドショットが決まったのだ
外出予定があるから、このまま出掛けよう。
そう思って身支度をはじめるが、本当にそれでいいのかどうか……
殺したはずが気絶しているだけで、帰ってきたら死体がなかったらどうするのか
これは、サスペンスやホラー映画でありがちなミステイクだ。
やっとの思いで殺害したところで安堵し、一刻も早く、その場を離れることだけに意識が向かい、万が一、息が残っていた場合のことを考えないのだ。
クリミナル視点で我に返った私が新聞を手に現場に戻ると……
やはり、生きていたーーーーーー
ヘッドショットで微妙に潰れたため、移動はできない状態だったが、足と羽をもぞもぞ動かしている……移動するのは時間の問題ということも十分に考えられるだろう。
徹底的に息の根を止めるしかない。
サイコモードにシフトした私はバーサーカーと化した
サイコ的な連打で完全殺害を終え、ゴミ置き場に死体遺棄し、何ごともなかったかのように外出した。
だが……
移動中も興奮が止まらず、人と会って食事をしても、殺害シーンが思い出される
外出間際の死闘でかなり疲れたようだった。
黒光るアイツでこれだけの興奮を覚えるのだから、人を殺める興奮とダメージは計り知れないだろう。
返り血を浴びて殺害し、平然としていられるのは普通ではないはずだ。
私は普通なのだ