ケヴィン・スミス監督の『Mr.タスク』を鑑賞しました。

古い屋敷に独りで住む老人を取材に行った男性が、セイウチにされてしまうという奇想天外な物語。

賛否両論、評価が極端にわかれるという作品ですが、私としては◎でした。ラストシーンを見ていたとき、「これはヒューマン映画だな」と思いました。ですので、ホラーやサスペンスを期待して見てはいけません。むしろ、泣かない程度の感動ものと言えるでしょう。

乱暴に分類すると、『ムカデ人間』の仲間でもあるし、切なさのある点を考慮すれば、『フランケンシュタイン』の逆バージョンになるかもしれません。

なぜ、『フランケンシュタイン』の逆バージョンなのかというと、人間の心を忘れてしまった人が自然界で純粋に生きるセイウチにされてしまうからです。フランケンシュタインは、人間の心を持ったまま、化け物の風貌にされてしまいますからね。

ネタバレというほどでもないかもしれませんが、この先は作品を鑑賞してからどうぞ。




ラストシーンでセイウチ人間になったウォレスは、最後に涙を流しました。セイウチとなってから、唯一残された人間の心が垣間見れる瞬間でしょう。

セイウチに病的な愛を抱く老人ハワードは、両親を失ってから施設に入れられ、15才になるまで連日の虐待を受けていました。大人になってから、船でコックとして働いていたとき、船が座礁して遭難してしまいます。たった一人で漂流していたときに命を救ってくれたのが、1頭のセイウチMr.タスクです。ハワードは、言葉が通じないセイウチに信頼と心の温もりを感じたのでしょう。生涯の中で唯一の友がMr.タスクだったのです。

ハワードはマッドサイエンスを実現し、サイコなヘンタイ爺になってしまいましたが、本当は心の触れ合いを求めていただけなのかもしれません。純粋過ぎる人が人間社会で生きることは過酷です。適応するにはハワードは弱く、結局、壊れてしまったということでしょう。

一方、セイウチにされてしまったウォレスは、貧乏時代から一緒にいてくれた優しい彼女を裏切り、浮気をしながら調子のいい生活を送っていました。そんな中、ハワードに出会い、セイウチ化していく恐怖を体験したのです。ウォレスは、彼女が求めていた何もない優しいだけの自分に戻ることを切望し、自分の愚かさに気付いたでしょう。

どうです? 感動ものでしょう?

リアリティーに欠けるという意味では、どんなホラー映画もわりとそうです。けれど、それぞれの作品の中で描かれたストーリーの裏側を想像できるかどうかで、面白味は変わってくるのではと思います。

純粋な子どもたちが、口の裂けた女が鎌を振り上げて追いかけてくることを想像しただけでトイレにいけなくなるのは、素直にそのストーリーを受け止めるキャパシティーも持っているからです。