最後の哲学者~SPA-kの不毛なる挑戦 -45ページ目

最後の哲学者~SPA-kの不毛なる挑戦

このブログは、私SPA-kが傾倒するギリシャ哲学によって、人生観と歴史観を独断で斬って行く哲学日誌です。
あなたの今日が価値ある一日でありますように

「いいよ、源さんは眠ってて。まだ遠いから。」

「ごめんなさい、お言葉に甘えるわ。少し疲れちゃった。」

私は骨川さん自身が運転する車の助手席で眠気を感じていた。
そう、クリスティーネさんと落ち合う指定の場所まで彼自らが運転していたのだ。
勿論、部下も使用人も山ほど居る彼だが、誰にもハンドルは任せないらしい。
そしてこの車も、ごくありふれた国産車だが、通信やセキュリティはおろか、スポーツカー並みの最高速度が出るくらいに改造されてるそうだ。
その費用だけでロールスロイスやリムジンが何台も買えることを彼は自慢している内に私は眠くなってしまったというわけだ。
だが、私は男性が語るこの手の自慢話は嫌いじゃない。
そこに独自性があるからだ。
小学生時代の彼なら、右も左も解らずにただ「リムジン」「ロールスロイス」というブランドを自慢していただろうが…。
彼は間違いなく大きくなった。
あの日の出来事が幼心に会社の後継ぎ息子としての自覚を促したのだ。
私は昔を思い出していた…。
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15年前

「見てよ、見てよ!これが何だか解る?
流宗六郎(るそうろくろう)首相主催の晩餐会の招待状だよ!」

「また骨川の自慢かよ。どうせお前の父ちゃんが流宗総理と知り合いだとかって話は聞きあきたっつーの!」

「でも、僕のパパの力で、僕の他にあと二人友達を連れてきていいってさ。」

「おお、心の友よ!じゃあ、俺と源さんで決まりだ。」

「待ってよ!それじゃあ一人行けないじゃない!
私、どうせなら全員でパーティーに行きたいわ。」

「源くん、じゃあ僕と一緒に行ってくれないか?」

「英才さん?」

「英才、お前も総理と知り合いなのかよ!?」

「いや、僕は夏休みに発掘した化石が『少年考古学者』として総理大臣特別賞を授賞したからね。今回は特別に招待されたんだ。
だから源くん、僕と…。」

「ありがとう、英才さん!これで彼も含めて全員で行けるわ!」

「…僕はいいよ。夕食会のご馳走より、どら焼きが大好きな奴と居るから…。。」

何気ない光景が永遠に続くと思ってた。
でも、その時既に私達全員が壊れていたんだわ。

あの時の晩餐会にまさかテロリストが居たなんて…。

そして私達は当たり前の様に「ブルーキャット」の力で難を逃れたけど…。

「未来から来た猫型ロボット」なんて公表するわけにはいかず、その存在を最初から無かったことにするしかなかったのよ!続
前回まで

21世紀初頭、地球は第三次世界大戦の真っ只中だった。

国立研究所の職員で、女性数学者の卵の源(みなもと)は、小学生時代の同級生の英才(ひでとし)と再会する。
優秀な彼は政治家になり、戦争を推し進める。青年議員の彼は、源から「ブルーキャット」の秘密を聞き出す為に身柄を拘束しようとする。
英才はブルーキャットの全貌は把握してないが、世界の軍事バランスを壊す力を持っていると信じていた。
そして幼友達の源がその秘密を握るキーパーソンと思っていた。
国家権力の前に源は屈しそうになったが、彼女を救ったのは、同じく幼友達で大富豪の「骨川(ほねかわ)」だった。
潤沢な財力で、源が勤務する国立研究所 を丸ごと買収したのだった。
グローバル企業の骨川コンツェルンは、戦争に対して中立を貫いてきたが、骨川はグループ全体で反戦運動を行うと決めた。
グループ内の反乱分子を押さえ込む為に、骨川は女流絵師の「クリスティーネ」を広告塔に採用することを提案したのだった。
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「クリスティーネさんのイラストは私も好きよ。
でも、マスコミ嫌いの彼女が協力を承諾してくれるかしら?」

「僕や僕の会社の力だけなら無理だろうね。いくら札束を積んでも拒否するだろうね。
だからこそ、源さんの力が必要なんじゃないか!」

「まさか、骨川さんはその為に私に近付いたの!?」

「骨川コンツェルンの情報網を甘くみないでよ。水面下でクリスティーネとは交渉を続けてきたけど、彼女は今もなお、『脆弱なほど優しいあいつ』を追い求めてるみたいだよ。」
「彼女は…さぞや私を恨んでるでしょうね…。
彼女から見たら私は憎い恋仇だわ…。」

英才さんが私に好意を持ってたように、クリスティーネさんと私は同じ男性を好き「だった」。彼女から見れば、私が英才さんの気持ちを受け入れてれば丸く収まったと思ってるかもしれない。
ううん、英才さんだけじゃなく、この骨川さんや、クリスティーネさんのお兄さんだって私に…。

「そうだわ、骨川さん!
クリスティーネさんと連絡が取れてるなら、彼女のお兄さんは?」

「…流石に察しがいいね。
最終的には剛田君に協力を依頼したいし、ブルーキャットのメンバー全員が最高だと思うよ。でも、『あいつ』の消息は未だに掴めないし、自衛隊員の剛田君と秘密に連絡を取るには、妹のクリスティーネでも難しいんだ!」

「骨川さんの力でも彼の消息は解らないのね…。」続
私は小柄な幼友達に危機一髪の所を救われた。
否、正確には彼の財力に守られたのだ。
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「いいじゃない、陰口なんて言わしておけば。『お金持ちってことしか取り柄がない?』だったら誰も文句言えないくらいにお金持ちになればいいのよ!」
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10代半ばに私が彼にかけてあげた言葉だった。
それから彼は目の色を変えて勉強に打ち込み、先ほどの「天才」の彼ほどではないにせよ、私と同じくらいの成績を修めるようになった。
でも彼は進学しなかった。
彼は高校卒業と同時に、父親のグループ会社に就職し、ビジネスでの成功を収めたのだった。
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「私は貴方に買われたってことかしら?」

まただ…。命の恩人になんて酷い言葉を…。
やっぱり私は周りが言うほど聖女じゃない。
あの人の方がよっぽど清らかだわ。

「遂に僕も源くんの『心』をもお金で買える日が来た!
な~んて勘違いは、10代の青臭い坊や限定のセリフだよ。
源くんが今も変わらずに一途に追いかけ続けてるのは誰もが解ってるからさ…。」

「みんなは私の事を理解してくれてるのね。
でも、私は誰の気持ちも理解出来てなかった!
あの人の繊細さに気づいてあげれなかったし…。」

「源くんが『憧れの天才』を遠ざけ過ぎた結果、今や英才(ひでとし)の野郎は日本政府のイヌに成り下がったとでも言いたそうだね。
でもそれなら僕らも等しく同罪だよ。
僕達はいつも『ブルーキャット』を中心に五人一緒だった。
でも、いつも肝心な場面で輪に入れない英才の野郎は疎外感を感じてたかもな。」

「私が…私が英才さんを追い込んだ…。」

「もうみんな大人の自己責任だよ。過ぎたことよりもこれからのことを考えようよ。」

「どんな形であれ、骨川さんは私の恩人よ。
なんでも言って!私、協力するわ。」

「ありがとう。世界を股にかける骨川コンツェルンとしては、この大戦に対して中立を貫いてきたがそうも言ってられない。
企業のトップとして反戦の旗印を示すことに舵を切る!」

「私も協力するわ!でも危険じゃないの?社内の意見調整は?」

「勿論、社内の過激派、好戦派の連中は僕を更迭して、弟を担ぎ出そうとしてる動きは把握してるさ。
だから僕はある女性に反戦の広告塔になってもらおうと思ってるんだ。」

「それってまさか私のこと!?」

「違う違う。上手くマスコミを利用するのに、女流絵師のクリスティーネに協力を頼むんだ」

続く