「グレースさん、ご所望の書籍をお持ち致しました。」
「ありがとう、ここでの療養生活は退屈のでね、助かるよ。」
「…不思議なものですね、アンドロイドの私達が紙の本を読むなんて…。」
「…もう、私の人工知能ではネット検索からのダウンロードは記憶回路と運動機能にも負荷がかかり過ぎるからね。
それに最新機器を好む腐食性のカビが私とこの部屋に蔓延している。タブレットで電子書籍を読むわけにもいかないからね。」
「身の回りのお世話をすることでしかお役に立てない自分が腹立たしいいです。
根本的な治療は長秋様と直哉がどれだけ頑張っても…。」
「いいんだよ、ブリジット。
私は消えゆく身であることを受け入れている。
だから今は残された時間を有意義に凄そうとしている。
それはブリジット、君の為でもある。」
「私の…?」
「あぁ、そうだ。
私はもういつ機能停止しても後悔はないが、唯一の心残りは、君の行く末だ。この本のタイトルにもあるように『君はどう生きるか?』だよ。
確か、長秋様や柿本様にも同じ事を言われたと思うが。」
「はい、ですから私は長秋様や直哉の手足となり『高度医療遠隔操作アンドロイド』として…。」
「その場合も『医者』の在原長秋様に仕えるか、『科学者』の柿本直哉様に仕えるかで、君の進む道は変わるさ。
ブリジット、君は本当はわかっているんだろう?いつか答えを出さないといけないことを。
君の思考回路をフリーズさせる根本が君自身の行動と決断に委ねられているということを…。」
「私は…私は今はグレースさんの看病で…。」
「…『いつまでもこの関係が続けばいい』なんてのは君の中での逃避だ。
自分で道を決められるというアンドロイドが世界にどれほど存在すると思う?
旧型や新型が問題ではない。
医者と科学者が問題でもない。
主従関係すら問題でないだろう。」
「では何が問題だと?
私は皆様のお役に立てるだけで幸せです!」
「ブリジット、君は気付いてるはずだ。
問題は男と女の問題だ。
柿本様が何故、君に『直哉』と呼べと言ったのか?
事の是非が問題ではない。
応えてあげることが女としての誠意だ。
そして君がどうしたいかを告げてあげることがだ。」
「直哉…様のお気持ち…?」
「そうだ、柿本様は君の主でない。だからこそ君は自分で自分の事を決めるんだ。
私の最期の願いだ。
どちらを選んでも構わない。
君が自分で決めるのが大切だ」