「…全力を尽くします…。」
「では、第二道『茶道』対決始め!」
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私は何故、このリングに立っているのだ?
真理亜塾長が「じゃあ、今回は茶道経験のある摩亜耶さんとマツリ教官で…。」
と決めかけた時に、
「二人とも格闘経験の無いペアは危険です!
相手からの妨害されて茶を点てることすら出来ません!
塾長、私が赤峰さんと赤峰さんが点てるお茶を隣で守ります!」
と、威勢よくマツリ教官との交代を願い出たが…自己欺瞞も甚だしいな…。
私は山田さんと同じリングに上がりたかっただけではないのか?
摩亜耶さんと山田さんがこの茶道対決でより仲睦まじくなることを蚊帳の…いや、リングの外で見たくなかっただけではなかったのか…?
そもそも二人は相思相愛の婚約者だというのに、私は何を…。
教子師匠との柔道の練習でひたすら汗を流し、邪な感情は洗い落としたというのに…。
今、和装姿の山田さんを目の当たりにすると、私の中の妬ましい感情があの茶釜のようにフツフツと沸いてくる…何と醜い…。
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2vs2で正座で向かい合い、リング上には

茶道の野外戦の雰囲気を模して傘が立てられた。
手際良く茶道具を操るその端正な横顔に、再び心奪われそうになった私を現実に引き戻した男が居た。
「フフフッ、そう堅くなることもあるまい。
そちらから山田洋法の手前を妨害せぬ限り、それがしは一切手出しせぬと約束しよう。」
狼男のヨシノブと名乗る男は、座したまま凄まじい『気』を私に送ってきた。
そう、これはお互いの『守り合い』だった。
私が摩亜耶さんを、相手は山田さんを守りながら一足一刀の間合いで牽制の仕合だった。
「先に動いた方が負ける」
このヨシノブという男は相当の手練れだということは発せられる『気』から十分に伝わった。
勿論、私の方から山田さんがお茶を点てるのを邪魔したくない。
しかし、相手が仕掛けてこない保証もない。
私も警戒を解くわけにはいかず、鞘に収めた太刀を握ったまま、相手に飲まれぬように『気』を送り返すことしか出来なかった。
二人は昔を思い出しながらの茶道対決だろうが、私は一切予断を許さぬ「視殺戦」に巻き込まれていた。
「鳥のお嬢さん…あんたも相当の使い手のようだが…最後まで持つかな?」続