「アル殿。落ち着くばい。華道だろうが合気道だろうが、相手二人をKOすればいいだけばい。」
「わかってる。先発は俺が行く。」
四選六道八連制覇の第一道は、「華道」。
15分間でより美しい花を活けるか、相手を倒すかで勝負は決まる。
但し、15分過ぎて「提出作品無し」だと勝ち名乗りの権利はない。
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「湖々先輩は自陣コーナーで花を活けててください。
それまでに私が弟とあの色白坊やを倒すけどね!」
「ミラちゃん、無理しないで。」
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ゴングが鳴ると同時にリング上はただの姉弟ケンカの場になった。
一角ウサギのアルミラージ同士の戦いは、突進力に任せたタックル合戦、さながら無骨なぶつかり稽古のようだった。
体格で勝る弟のアルの方が姉のミラを圧倒するかと思ったが…。
「どうしたの、アル?その程度のことしか羅漢塾で習わなかったの?
お姉ちゃんガッカリだわ。」
羅漢塾先鋒の因幡アルの渾身のタックルは、それより更に低重心に構えたミラのタックルに返り討ちを繰り返すばかりだった。
「先輩!弟が強かったらって心配して損しちゃった♪
生け花の方はどうですか?」
マットにひれ伏す弟をよそに、自陣の「華道」の出来栄えを気にする余裕を見せるミラ。
「今、半分くらいかな?秋は竜胆(りんどう)が綺麗だけど、お花だけでなく、松ぼっくりとか飾るとアクセントになるかな?」
「うわぁ、綺麗…。でも、どっから持って来たんですか?」
「うん、私はマンドレイクの妖怪だから、足の根っこを静かに伸ばして、地中を掘り進んで松の木から持ってきただけよ。」
「き、器用ですね…。」
「うん、足の根っこと手の枝を自由に伸ばせるから、ついつい面倒くさがりな出不精になっちゃうのよね。」
「みんなから腐女子って呼ばれないように、先輩も少しは運動してくださいよ。
私達は真理亜塾長に鍛えられたから強く…。」
「遊びは終わりばい!」
ミラの油断はアルに止めを刺さずに、タッチの機会を与えてしまった。
代わってリングに上がった一反もめんのコトー。
色白な青年姿は一反もめんの白に由来するのだろうか?
「ちょっと、引っ込んでなさい!
アルでさえ私のタックルに手も足も出なかったのに、あんたなんか…。」
ヒラリとミラのタックルをかわし、自分の勢いで…。
「いた~い」
投げ返されるミラ。
それは紅い布に興奮する闘牛でなく、白い布にかわされるウサギだった。