「あたしがおクネちゃんを食い止めるわ!
ミラちゃんとかごめちゃんは早く壁を越えて!」
「樹里亜、頼んだわよ!」
「任せて!成功したらミラの弟くんの友達を紹介する約束忘れないでよ!」
『了解!』
三人の塾生のうち、ショートカットの女性が一人足を止めた。
残り二人の少女は左右に別れて再び壁に向かって走り出した。
突然はじまった少年漫画の様な展開に、五人の人間女性はただ呆然と事態を見ているだけであった。
しかし、五人を案内していた三好真理亜塾長だけは、一目散に立ちはだかった少女の方に向かった。
「おクネちゃんごめんね、え~い!」
樹里亜と呼ばれるショートカットの塾生は、手の平から野球ボール大の水流を次々に作り出し、新井クネと呼ばれるベテラン教官の足元を狙って投げはじめた。
「凄い!水系魔法だ。」
「違うわよ、倫恵さん。妖術でしょう?」
「はじめて見ました…。」
「ゆかり、ここに居る全員が多分そうだ…。この塾は…そういうところだろうな…。」
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「目暮樹里亜さん、何ですか?一号生筆頭の貴女までが壁越えに加担するとは!
覚悟は出来てるのでしょうね!
ストリンガーバインド! 」
「きゃあ~~」
ベテラン教官の10本の指先から無数の蜘蛛の糸が放たれ、あっという間に樹里亜という塾生をぐるぐる巻きにする。
少女は地面に倒れ、苦痛に顔を歪める。
「時間稼ぎの通せんぼにもならなかったようですわね。
塾生と教官には天地ほどの開きがあって当然のこと。
さて、先を行った二人も…。」
クネと呼ばれる教官が右手の指先をクイと曲げると、その先に延びる蜘蛛の糸が別の生き物の様に波打つ。
途端に離れた場所から違う少女の悲鳴が聞こえる。
「三人仲良く捕まったようですので、塾則違反の貴女達は教官室でのお仕置きです。
面倒ですからこのまま引きづって行きましょうか?」
「まだよ、まだ終わんないわ…。
壁の向こうじゃ、ミラの弟くんが病気なの。薬を届けるって決めたもん。
おクネちゃん、ごめん…。」
「水流攻撃は私には通用しません!」
「そうね…。
でも、この水が全て『雨水』ならどうかしら?」
「どうしてそれを!?」
「私はメタルスライムの目暮樹里亜。体内に異なる水を保存するなんて簡単よ。蜘蛛の妖精『アラクネ』が雨水を嫌がるのは調べがついてるわ!」
「あらあら、…今年の一号生は元気ね。
ここは塾長の私自ら…」続