妖!萌慎艶戯塾 第五話「葛藤」 | 最後の哲学者~SPA-kの不毛なる挑戦

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このブログは、私SPA-kが傾倒するギリシャ哲学によって、人生観と歴史観を独断で斬って行く哲学日誌です。
あなたの今日が価値ある一日でありますように

「貴女達に取って悪い話じゃないはずよ。
でも、直ぐに返事をくれとは言わないわ。
この世と隔絶された世界に踏み込むにはそれなりの決断も必要でしょうから。
今日が土曜日だから、来週の土曜日の11:00にここでお待ちしてるわ。
全員が揃ってくれることを願ってね…。」

「あ、あの…この世と隔絶ってことは、私達は失踪というか行方不明になるんですか?」

「大丈夫よ、人間の貴女達が人間界にいつでも出入り自由よ♪
ただ、塾生達と寝食を共にする毎日の中で、家族や親友をそう騙し続けられるものじゃないし、説明して理解を得られる人ばかりじゃないでしょうね♪」

「じゃあ…私達は俗に言う…。」

「ええ、『神隠し』ね。
ただ、その辺りも含めて私は貴女達を選んだつもりよ。
私は啓示の天使にて、萌慎艶戯塾長の三好真理亜ですから。
では皆様ご機嫌よう」
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「神隠しか…。私には願ったり叶ったりだな…。だが、こればかりは、ゆかりに無理強いは出来ない。ゆかり、幸せになれよ。」

店を後にして、それぞれの連絡先を交換してから、冴木マツリは自嘲気味に呟いた。

屋敷に戻り、小柄な自分には不似合いな大きなベッドにダイブする。
夕方なら婆やが口うるさく小言を言うだろうが、真夜中の今なら深い眠りの最中だから問題ない。
深い眠り、そう深い眠りだ。
マツリは一度眠りに落ちたら中々起きない婆やが幼少の時から羨ましかった。
可愛い容姿を政治家の父に利用され、従順なマスコットを演じてきた。
しかし、それは反旗を翻す為の力を蓄える時期と我慢してきた。
20代半ばで区議会議員に当選し、下地は整ったと思っていた。
だが、それさえも父の政治戦略に利用されたのだったと気付いた昨今、冴木マツリは絶望の淵に居た。
いっそヴァンパイアに拐われたいと白昼夢に耽る日々が続き、気付けば秘書で幼なじみの古瀧ゆかりと幻想世界の雑談で盛り上がるのが日課となっていった。
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寧ろ迷いがなかったのはゆかりの方だった。
天涯孤独の身の上で、友達というだけで、冴木家の人間と同じ様に進学させて頂き、アルバイトとはいえ、秘書の仕事まで与えてくれた。
親友のマツリが実父を忌み嫌うのは痛いほど解るが、自分は感謝しても仕切れない。
だが、それも今日まで。
古瀧ゆかりの覚悟は決まっていた。
塾の講師が務まるかなんて解らない。
でも天使様のお導きを無駄にはしない。

「私はドラゴンに会いに行く」