僕たちに許された二重殺(ダブルプレイ)34 試合編18 | 最後の哲学者~SPA-kの不毛なる挑戦

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このブログは、私SPA-kが傾倒するギリシャ哲学によって、人生観と歴史観を独断で斬って行く哲学日誌です。
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試合は終盤八回の表。
打順は三番の加賀谷先輩から。
1点リードだけじゃ安心出来ない。
ここは主砲の加賀谷先輩の一振りでなんとしてでも…。

「加賀谷、頼んだぞ。」

「真山、お前こそ四番だから皆から期待されてんだろ。
俺が出たら頼むぜ。」

「俺は先発で散々投げた後に馴れないライトの守備でクタクタなんだ。楽させてくれよ、加賀谷。」

「相変わらず面倒くさがりだな。
『独りで』帰ってくるよ」

僕には直ぐに先輩達の会話の意味がわからなかった。
でも…。

「いったー!」

「ホントにやりやがったぜあいつー!」

「加賀谷先輩ナイスバッティング!」

二球目の甘いストレートを強振した加賀谷先輩。
打球は右中間スタンドの一番深い所に突き刺さった。
次の真山先輩を楽にさせる為、ランナーとして残らない為のソロホームラン宣言だった。

ホームインした加賀谷先輩を迎える次打者の真山先輩。

「お前、ホントに打ちやがったな。
んじゃ、俺も『歩いて』帰ってくるぜ。」

「これもいったー!」

「真山先輩流石!」

まさかの連続アーチを成功した三番四番コンビ!
打球はウチの生徒が応援するレフトスタンドに吸い込まれた。
彼女の中ノ瀬先輩も大喜びだ。
点数はこれで5-2。

こうなったら五番の秋成にも一発を期待してクリーンアップ三連発を願うけど…。

「タイム!」

滅多に指示を出さない二本松監督が立ち上がった。
真山先輩に投手交代を申し出た時以来だよ。
まさか…。

「玉野君。
君に代打を出してもいいんですよ?
私は野球の難しいことはわからないので、真山君に一任してきましたが、監督として『闘志なき者は去れ』としか言えません。
意味はわかりますよね?
君に取ってはこの試合展開は想定外だったようですね?
打席で打つ気が無いなら代打を出すのは当然です。」

皆、「あの事」には触れないでいようとした。疑うなら何処までも疑えるし、信じるなら何処までも信じられるからだ。

「ま、待ってください二本松監督!
玉野は攻守の要です!
ここで降ろしたら山大付属は勢いを取り戻し…。
それにコンビを組む慎太郎のプレイにも悪影響です。」

真っ先に反対したのは何故かマネージャーの東瀬だった。
勝つ為に秋成を出すか?
チームに本当の絆が生まれ始めたからこそ、一つになれない秋成の交代か?

「誰を使うかは監督が決めることです。でも、僕は金城くんに決めてほしいです」