小宮くんの打球は相手外野手の好守に阻まれ二重殺になった。
リードは一点のままで七回の裏を迎えたけど…。
「カン!」
「ちくしょう…。
こいつはシンカーだけじゃないのかよ!
サブマリン特有の浮き上がってくるストレートか…。」
「セカン!イージー!イージー!」
小宮くんは最小リードの一点で相手の三番と対峙しても堂々としていた。
迂闊にシンカーに手を出さない様にじっくり見極めたつもりだが、五球目の高めのストレートに詰まらされセカンドフライ。
僕は緊張してないってわけじゃないけど、勝ってる時の守備は身が引き締まる思いだ…。
ボールを良く見て、日光に目をやられない様にギリギリまでグラブで遮りながら、右手を添えて…。
「アウト!」
「いいぞ!金城!」
まずは1アウト。
僕のエラーでランナーを出すわけにはいかないからな…。
アンダースローの小宮くんは三振を取るタイプじゃないから、内野手が確実に守らないと…と、思ってたら…。
「ストライク!バッターアウト!」
絶妙な高さから曲がりながら落ちるシンカーは、右打者の視界から完全に消えた!
相手の四番を空振り三振に打ち取り、
「ッシャアー!」
と雄叫びを挙げる小宮くん!これがあの小宮くん!?
マウンドじゃ別人だよ。
そして…。
「セカン!前!前!」
わかってますよ!
最後の五番打者はシュートにバットの芯を外されセカンドゴロ。
そう、浮き上がるストレートと消えるシンカー。
それに加えて右打者の内角をえぐるシュートもある。
ホントに凄いよ…。
打球が緩すぎて早いダッシュが僕には要求された。
内野安打を許さない為に打者走者と競争になったが…。
「必ず刺せる!」
グラブで捕ってたら間に合わなかっただろう。
僕は素手の右手でゴロを取り、最初から一塁よりの半身で身体を入れるからステップは入れ替えずに、そのまま手首だけで投げる。
少々逸れても加賀谷先輩が救い上げてくれると信じて…。
「アウト!」
「凄~い!金城くん!カッコイイ~!」
「いいぞ!慎太郎!ナイスセカン!」
スタンドから藤田さんの声が、ベンチからは東瀬の声がしっかり聞こえたよ。
ありがとう、君達の応援が僕の力だ。
でもいつか、
「金城なら捕って当たり前」
って思われる選手になるからね…。
秋成に追い付くだけじゃ駄目だ。
秋成を越える選手に僕がなることが、秋成に取って唯一の救いと癒しだと思うから。