僕たちに許された二重殺(ダブルプレイ)27 試合編12 | 最後の哲学者~SPA-kの不毛なる挑戦

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六回の裏
無死走者無し。
反撃ムードを打ち壊すかの様な山大付属の追加点。
しかも投手の都倉さん自身のソロホームランだから、相手側の盛り上がりは倍増だ。

「ちきしょう…都倉の野郎…。」

いつもは笑って軽く流す真山先輩も、マウンドにグラブを叩きつけて悔しがっていた。

無理もない…。真山先輩の負担が大きすぎる…。
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振り返ること五回の裏。

僕が出塁しても点が取れなかった嫌な流れだったが、そのムードを一新したのは真山先輩の粘りの投球だった。
相手の五番から三者三振!
ベンチもスタンドも大盛り上がりだったが、それだけ球数を、しかもいつも以上に速い直球を多投していた。
そして次の六回表。
二番川中先輩は三振。期待された加賀谷先輩もセンターフライ。
二死走者無しで四番の真山先輩は、出塁を諦めなかった。

11球ファールで粘っての12球目。
鋭い打球が三遊間を破るかと思ったが、相手ショートが追いつき、深い位置からの遠投をものともしないファインプレーだった。
真山先輩は次のマウンドなど考えもしない気迫溢れるヘッドスライディングを見せたが無情にもアウトだった。
「点は入らなかったけど、きっと必ず追い付ける」
と思わせた瞬間の被弾だったから余計にダメージは大きかった。

でも…。

僕たちに出来ることは気持ちを切らさないことだった。
次の打者に四球を与えても、僕は自分の所に来たセカンドゴロを確実に捕球し、ショートの秋成に送球することで、こ試合初の二重殺を完成させた。
これで真山先輩の助けになるといいけど…。

「タイム!」

滅多に動かないベンチが、六回裏二死走者無しで初めて伝令を送ってきた。
仕方ない、県立高校のウチは、野球推薦もなければ、徳永先生もただの数学教師で「監督」よりも限りなく顧問だ。

背番号16をつけた小宮くんが伝令に来る。
きっと励ます言葉をかけに来ただけかな?と思ったら…。

「徳永先生が…投手交代って…。」

「まだ俺はいけるぞ!控えの村中で大丈夫かよ?」

「いえ、違うんです…。次のピッチャーは僕なんです…。」

意外とみんな驚きはなかった。
僕たちは小宮くんの影の努力を皆知ってるからだ。

「わかった。んじゃ、俺はライトで暫く休憩するわ」

機嫌よく外野に付く真山先輩。
そしてマウンドの小宮くんは突然…

「た、玉野君!僕と勝負だ!君は僕の大切な人を傷つけた!僕の魂のピッチングを見てろ」