「そろそろ、あんなことをした真意を教えてくれないか?」
練習を終えての帰り道、土曜日だからまだ夕暮れ前だ。
僕は秋成と最寄り駅までの途中、何故、藤田さんに突然キスしたかを何度も問い質したが、秋成は「キスしたかったからしただけ」と繰り返すだけだった。
わざわざ駅方向まで自転車を押して歩く理由はない。
僕はモヤモヤした気持ちを残さずに試合に臨みたいだけだ。
せっかく…東瀬が来てくれたのに…。
久しぶりに一緒に帰宅出来ると思ってたのに…。
僕と東瀬は、この地域出身だ。
高校へは自転車通学だ。
玉野はもう少し離れた町から通ってるから、電車通学だ。
東瀬と一緒に登下校しなくなってからは、秋成をわざわざ自宅と反対方向の駅まで見送ってから自転車を飛ばして帰宅していた。
ここ数日は全然苦にならなかったのに、今はこの距離が苦痛だ…。
「気に入らない女を遠ざけるのには役に立ったな。
藤田とかいう女が、見た目よりもポテンシャルを秘めたのは予想外だったがな。」
秋成の態度が変わった。
駅に向かうウチの生徒がまばらになったのを見越してか?
「気に入らない女?
早乙女さん達がまとわり付くのを嫌がるなら、自分で本人に言えばいいだろ。
関係ない藤田さんを巻き込むな!」
「何だ、『か弱い女を守らなきゃ!』と、ナイト気取りか?
東瀬美由紀が慎にしてきたことと同じだな。」
え?何で秋成が東瀬の名前を?
「慎、はっきり言っておく。
俺は確かに早乙女達を面倒くさいと思っているが、俺が一番遠ざけたい女は東瀬美由紀だ。
あの女は慎に過保護過ぎる」
「何で東瀬の話になるんだよ!」
「『助けてあげなきゃ』『守ってあげなきゃ』がどれほど相手の成長を妨げると思ってる!
慎、お前は見違えるほど上手くなった。
お前がお前の意思であの女を遠ざけたからだ…。
試しに藤田のの香とかいう女も、慎は暫くシカトしてみな。『憐れみと同情じゃ金城くんは振り向いてくれない』と思い知らされた時、あの女は見違えるほどいい女に生まれ変わるさ…。」
「秋成、君は一体…?」
「あの二人…東瀬美由紀は、隼人さんが亡くなる前の姉ちゃんに似ている…。
そして藤田のの香とかいう女は、隼人さんが亡くなった後の…沈んだ姉ちゃんに重なって見えたんだ…。」
「どっちが秋成の好みなの?
それともお姉さんが一番好きなのかな…?」
「俺が誰を一番愛してるかは、慎が一番わかってるだろう?」続