僕たちに許された二重殺 12 | 最後の哲学者~SPA-kの不毛なる挑戦

最後の哲学者~SPA-kの不毛なる挑戦

このブログは、私SPA-kが傾倒するギリシャ哲学によって、人生観と歴史観を独断で斬って行く哲学日誌です。
あなたの今日が価値ある一日でありますように

決戦前日の土曜日。

僕には嬉しい事ばかりだ。
ひとつは、レギュラー組は疲労を残さない為にストレッチ中心の軽い練習だってこと。
特に内野手の僕達は、下半身に負担がかかる守備練習が少ないのが嬉しかった。

これがほんの一週間前に想像出来た光景だろうか?

そう、全ては秋成のサヨナラヒットで僕がホームインした所から始まった。
僕は変わったんだ…。

相変わらず僕は長打は打てなかったが、控え投手の同級生相手になら、何とか鋭いライナーを外野に飛ばせるようになってきたのは大きな自信だ。
秋成の打撃を見てるとその自信も無くしそうだけど…。

「あっ、帰ってきた!
真山先パ~イ!」

エースの真山先輩がロードワークから帰ってきた。
投手は肩を軽くすることが大事なので、レギュラー投手組は校外に長距離走に出ていた。
それが帰った途端に女子が群がる。
そしてグランドで練習してた野手にも女子が集まる。

そう、我が野球部に代々伝わる

「儀式」

の始まりだ。

必勝祈願の為に、応援する女子がお目当ての部員に手作りの「御守り」を渡す。
元々は死球で怪我しない為のおまじないだったんだけど、平凡な公立高校は試合をする野球部よりも、応援する女子の方が立場が強く、いつの間にか野球部員がそれぞれの彼女から御守りを試合前に受け取るのが女子の間で「儀式」になったらしい。
勿論、僕みたいに彼女が居ない部員は、マネージャーの東瀬が「大量生産」した御守りを事務的に「配布される」だけだけど…。
でも、僕はそれでも手渡される時の東瀬の励ましの言葉が好きだった。
今はもう居ないけど…。
ファンクラブの早乙女さんが、秋成に近寄るタイミングを窺ってる。
彼女が最も優越感に浸れる時だろう。
勿論、秋成が邪険に断らない前提で…。
その時…。

「慎太郎!」

この声だ…。
この声を待ってたんだ。
たった一週間でも懐かしい。
やはり前日に東瀬はマネージャーとして来てくれたんだ!

僕は東瀬から「頑張って」の声をかけてほしいと思ってたが、東瀬はクラスメートの藤田のの香さんを連れて、この子から受け取れと言ってきた。

「あの…金城く…ん…。あ、明日のし、試合…。
私、お守り…。」

その時、早乙女さんを振り切った秋成は、藤田さんと僕の間に入った!

「あの…それは…。」

「有り難く受け取っておく。
これは俺からの礼だ…。」

と、藤田さんの御守りと口唇を強引に奪った。続