「次!6-4-3!」
三遊間を破ろうかというノッカーの強烈な打球は、遊撃手の玉野君の華麗な逆シングルキャッチに阻まれ、力強いスローイングから放たれた送球を僕は受け止めた。
捕球と同時に二塁ベースを踏み、ランナーと交錯しないように『高く跳ぶ』。跳ぶと同時に、肩を使わない手首だけのスナップスローで素早く一塁に送球する。
送球はワンバウンドになったが、ファーストの加賀谷先輩が巧みミット捌きでボールをすくい上げ、僕たちの二重殺は完成した。
「ナイスプレー!
金城!玉野!」
「ありがとうございます!」
今日は金曜日…。
東瀬が部活を休みはじめたのが火曜日だから、今日で4日目。
玉野君が一年生らしく用具の準備をし、僕に笑顔を見せるようになってから3日。
憑き物が落ちたかのような玉野君の溌剌としたプレーは、僕の心と身体を刺激し、この3日で、僕たちの二遊間コンビの連携は飛躍的に向上した。
個々のフットワークやスローイングの向上だけでない。
僕たちは話し合った。
部活以外でも時間を惜しんで意見を交換しあった。
盗塁や牽制の時にどちらがベースカバーに入るか?
近い距離でボールが飛んで来た時は、トスとグラブトスをどう使い分けるか?
ショートの玉野君はどんな気持ちでセカンドの僕に送球と捕球をするのかを徹底的にわかろうと努力した。
知れば知るほど彼は理詰めでリスク軽減を重視する現実主義者だった。
外からは派手なプレーに見えるが、一か八かの危険な賭けは滅多にせず、常に相手と仲間を観察し、事前に先読みするプレーに終始していた。
これは僕にも多いに参考になった。身体が小さな僕は、自分の守備力を最大限に引き出す必要があった。
打者のクセ、投手のクセ、走者のクセを観察し、事前に守る時の立ち位置を半歩ごとに変えるだけで捕れない球に届くようになった。
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「ありがとうございました!」
金曜日の練習が終わり、後は土曜日の調整練習のみ。
やれることはやったつもりだ…。
「あぁ、小宮。俺も持つよ。」
「い、いいよ玉野君と金城君はレギュラーなんだから!用具の後片付けは他の一年生達で…。」
「小宮くん、僕たちは天狗にならないって決めたんだ!
小宮くんにレギュラーを奪われた時に恥ずかしくないようにね。」
小宮君を先に帰し、暗い用具庫に土を整備するトンボを二人で収納する。
僕はもう、心の中で東瀬の存在を消してしまうことに慣れていた。
続