流石に腹が立った。
フリーバッティングの練習中に、先輩に僕の滑り止めスプレーを貸した途端に、玉野君が自分のスプレーを僕に差し出したからだ。
玉野君が何故、「僕だけ」と親密にしたがるかわからない。
玉野君は優秀な遊撃手として、僕自身知らない二塁手の能力を見出だしてるかはわからない。
でも、シード校の山大付属との対戦を日曜日に控え、いつまでも玉野流のワガママが通用するのか?
前の試合は控えだったけど、お互いにレギュラーならば余計に自覚を持たなきゃいけないんじゃないのか?
「どういうつもり?
玉野君は自分の守備と打撃『だけ』を練習してればいいんじゃないの?
僕に過剰に構う必要はあるの?」
「……。」
スプレーを借りることを拒否すると、食い下がるでもなく、さっさと退く玉野君。
そして…。
「金城が俺をどう思ってるかは知らんが、俺は次の戦いの為に優先すべきことをやってるだけだ。」
「あぁ、そうかよ!」
打席に戻り、怒りに任せた強引なスイングは、引っ張り過ぎてファーストゴロだった。
簡単にホームランを打ち込んだ玉野君とは大きな差だよ…。
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翌日、東瀬も玉野君も何事も無く授業に出てた。
東瀬は仲の良い女子とだけ話し、玉野君は相変わらず、僕を含めて自分以外に教室に居ないかのような振る舞いだった。
異変は二時間目だった。
「じゃぁ…この問題を玉野!」
「はい…。Y=2x+6a-2bです。」
「うん…正解。」
「凄~い、今のかなり難しかったよ、私、全然わかんなかった。」
「玉野君て頭もいいの?」
野球に興味ないクラス女子まで玉野君の頭脳明晰ぶりに驚きを示した。
「東瀬、今日も部活休むのか?」
「…ごめん。注意してたのに、やっぱり風邪気味なんだ。」
「わかった。
試合には来てくれよ!
マネージャーの仕事が無理でも、観戦くらいは…。」
「わかってる…。じゃ…。」
これでいいんだ。
今は東瀬を玉野君に近付けないことが一番なんだから…。
それで僕と東瀬の距離が開いても…。
東瀬が居ない野球部の練習に向かうと、既に玉野君が率先して用具を準備してる!
今までやったことないのに!
「玉野君、どういう気の回り?」
「人聞きが悪いな。
次の試合に備えてるだけさ」
初めて見た…。
照れくさく笑った玉野君を。
…僕が玉野君と話すのは、東瀬を玉野君から遠ざけるのが理由だったはずなのに…。続