「おい、一歩目を早く!」
「玉野君、もっと真ん中に投げてよ~。」
「捕りやすい球投げたって意味がない!ギリギリ捕れない球を捕れるようになって守備範囲は広がる!」
「それはノックの話だろ。
これは休み時間のキャッチボールなんだし…。」
「来週の試合まで時間がないんだよ!」
こんな玉野君は初めて見た。
焦りやイライラをぶつける姿なんて見せたことがない。
僕たちみたいな弱小高校はシード校の下に組み込まれる宿命だ。
一回戦は同レベルの学校に運で勝てても、二回戦は比べものにならない強豪校に大敗するのが例年のパターンだそうだ。
でも今年は違う。
ウチには玉野君が居る。彼の打撃で掴んだ勝利は明らかに僕たちの実力だ!
その玉野君が、僕の守備を必要と思ってくれてる…。
だから昼休みの僅かな時間を見つけて、僕を鍛えてくれてるんだ…。
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投げる仕草を途中でやめ、小走りで僕に近づく玉野君。
「金城、お前の守備は綺麗だ…。」
「あぁ、ありがとう。玉野君に誉められるとうれしいよ。」
「だが…綺麗過ぎる。
基本に忠実にやってればいいってわけじゃない。
自分がフェアにやってても、お前の足をスパイクで削りに来る連中は居る。」
「次は名門の山大付属だよ?まさか!」
「エリートほど、勝つ為なら何でもする。金城、二塁手はダブルプレー崩しの為に悪質なスライディングを避ける必要がある。
ショートの俺かサードから送球を受けたら、気持ち高く跳んでスローしろ。
それだけで無駄な怪我は防げる…。」
「うん、ありがとう。
でも、次の試合出れるかな…。
確かに二塁の須永先輩は怪我したし、玉野君がショートの井坂先輩を押し退けてレギュラーを獲っても、井坂先輩がそのまま二塁守りそうだな…。
そうなったら、僕は控えだよ…。」
「俺だって保証はないさ…。
だが、俺は金城と二遊間を組みたいと思ってる」
「お姉さんも喜びそうだね…。」
「あぁ、お前のおかげさ…。
『あんなこと』があっても姉ちゃんがまた笑えるようになったんだからな…。
本当に感謝してる。」
「やめてよ!お姉さんだって、玉野君が明るくなったって、僕にお礼述べてたんだから!
それに僕だけじゃなく、東瀬も居てくれたから…。」
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「井坂ー!おい、保健室連れてけ!」
その日の部活、井坂先輩は、ランナー役の玉野君の「悪質なスライディング」を喰らった。
…故意じゃないよね?続