「ほっほ、トール神とフレイア神がその後離縁したとは、女性ならではの視点かのう?」
「司教様、僕は別にカトリックが離婚を禁止していることを揶揄する為に自説を唱えてるわけじゃありませんよ。」
「ほう、これはすまぬ。ワシはこれでもアスガルドの神話は大好きじゃよ。
幼子の時の様に心が躍るわい。」
「フフフ、勇ましく猛々しい神様の活躍に憧れるのは男の子の本能でしょうね。
そこが幾つになっても可愛いんだけど。」
幾つになっても可愛いか…。我が花乙女騎士団に年上男性のみを恋愛対象とする女が居るが、こういうことを平気で言いそうだな…。
やはりこの学者女は丞相の愛人で、研究や執筆の出資目的の関係か?
だとしたら何と穢らわしい…。
ロイに気安く話しかけるな…!
「続けていい?
劇を観たらわかると思うけど、トール神は確かに戦闘の神としては有能だったかもしれない。
でも妻となるフレイア神に愛想を尽かされても仕方ない場面がある。」
「あぁ、それなら僕にもわかるよ。
随分子供の時…。
王宮を訪れた劇団が『トールの槌劇』を上演してくれたんだ…。
今でもはっきり憶えている。
その時の印象は
『トール神は幾ら強くとも迂闊過ぎじゃないか?
花嫁に化けて潜入してるのに、鮭や牛をたらふく食べるなんてあまりにも配慮がないよ…ってね。
あの時僕は思った。
勇ましい国王になるよりも、民への配慮を忘れてはいけないと。」
「ハイネ殿下のそのお心遣いは、スールシャール王国歴代の名君として名を刻むでしょうな。
友好国の我がリーセ王国はそれを誇りに思うばかりです。
あとは殿下の代わりに『勇ましさ』を担当する者が現れ、共に劇場に通うことが出来たら言うこと無しですな。」
だから丞相は何故、私の存在をチクリチクリと!
「そうですね…。それも確かにトール神の落ち度ですね。
とにかく、そういう性格のトール神との夫婦生活は長く続かず、フレイア神は逃げ出すと同時に槌を持ち出し、南の海底に沈めたのさ。
そして自分はアマテラスの太陽神となった。
槌の存在は誰にも知られず、怪物トロルの様に誰も悪さをしなかったからトール神も気付かないままだった。
ただ愛するフレイア神の帰りを待ち続けたのさ。」
「まるで旦那の帰りを夜中まで待ち続け、ランプの灯りを継ぎ足し続ける…。
男の中に存在する女々しさが『白夜』だと?」
「それは後で。そして南海の底の槌が『大破壊』を招いたのさ」続