「司教の洪水説も、ハイネ殿下の『鳥の襲来』説もどちらも説得力がありますな。
やはり人の上に立つ者のお言葉は重みがありますな。
私の様な世俗にまみれた輩にはとてもとても…。」
「カイザー丞相は単純に『世界戦争』を唱えてるとお聞きしましたが。
しかも『神罰の力』を一部の人間が利用したとか…。
リーセ王国の覇権を強めたい気持ちは解るが、政治に主の御心を利用するのは納得出来ないな、しかもヤハウェ教信者でもないのに…。」
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「じゃあ、私達は厨房から中に入って、料理長と調理婦達に『新米メイドのララァちゃん』を紹介するからね。
これででお茶や料理を運ぶ時に会議室に入れるわ!」
「すまない、エマ…。
だが料理長達は怪しまないか?」
「言葉遣いが違うでしょう!ララァ。」
「…はい、ありがとうございます、エマ先輩…。」
「全く!リディアちゃん一人を送り込む為に、調理婦のキシリアちゃんに、機甲師団で一番の美男子のメルベリくんを紹介したり、同じく会議室に行きたがる同僚のメイド達を説得するのに大変だったんだから!
みんな丞相の中年の魅力と、人気の作家先生が普段は男装してる女性ってことで、一目見ようって大混乱だったんだからね!」
「ほんとうにすまない、エマ…。」
「……。」
「……。」
「同じ事を言わせるな~!」
「は、はい、申し訳ございません!エマ先輩…どうかお許しを…!」
「ふ~ん、随分可愛くなったじゃない。
愛しのロイもこれで惚れ直すんじゃない?」
「…そんな…私なんて…まだまだ…です…よ…。」
(まぁ、殿下やカイザー丞相まで寄ってきそうだけど、リディアちゃんはわかってないだろうから教えてあ~げない)
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「遅れて申し訳ございません料理長。
メイドのエマ=クレイトン他一名ただ今到着しまし…た。」
厨房では中年太りした料理長が腕を振ってる最中だろうとエマは言ってたが、料理長の姿はなく、痩せ身の若い男性が調理帽を深々と被っていた。
手助けする調理婦も本来なら沢山居るのに、たどたどしい手付きの女性が一人居るだけだった。
「あぁ、料理長と他の女は味見した鴨に当たってな…。
急遽俺が別の料理を作ってるところだ。
ここは任せろ。
君達は殿下や皆様にお茶を。
時間には間に合わせる。」
「はい…。」
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「僕の説は最後に話させてもらうよ、次はロイ大臣の説が聞きたいな。」
この女…ロイだと?
続