勲章と指環 16 | 最後の哲学者~SPA-kの不毛なる挑戦

最後の哲学者~SPA-kの不毛なる挑戦

このブログは、私SPA-kが傾倒するギリシャ哲学によって、人生観と歴史観を独断で斬って行く哲学日誌です。
あなたの今日が価値ある一日でありますように

「それではまた明日」

宮殿内の自室に着いた時は、すっかり夜も更けていた。
今夜は何人にこの台詞を言っただろうか?
アスガルド教の奉納劇を観賞し終わった後、採掘場から御用立てした娼婦達を送り届け、まだ若いメルベリ殿は兵員合同宿舎に帰られた。

そして…。

「では、明日をお楽しみに、シェルストレーム内務卿殿。
貴公が喜ぶ手土産を必ずお持ちしますので。」

豪腕で知られるカイザー丞相も、流石にこの時間にハイネ殿下を訪問するわけにいかず、今夜はリーセ王国大使館に宿泊することを決めた。
手土産?ハイネ殿下がミネルバ王女との婚約を反古にして、私に求婚したことを詰め寄るつもりだろうが…古狸め…!そうはいかん!
私のことを「騎士の仮装をした娼婦」等とロイの前で言ったことは冗談で済まされんぞ!
必ずや我が剣の錆びにしてくれる!

大使館にまで、あの従神ロキ役の少女を連れていくなどと…恥を知れ。公務に愛人をわざわざ男装させて同行させるなどと不埒な…。

(それよりも自分の心配か…。)

宮殿内に個室を持てる者は一部の階級の者だけだが、今はこの空間があることを感謝している。
衣装棚の上に、二つの小箱の蓋を開けてみる。
並べて観賞することで、改めて問題の根深さを想い知る。
ハイネ殿下から贈られた

ファイル1057.jpg
これと

ロイがくれた

ファイル0852.jpg
これ…。
どちらも眺めているだけで心癒されることは間違いないのに、
どちらも私が望む気持ちを形にしたものでないのが口惜しい…。

(…もう…何も考えずに、ハイネ殿下にこの身を委ねるべきなのだろうか…。
騎士団長として有事の際には祖国の為に命を捧げる覚悟はある!
だが殿下に操を捧げるのは女としての覚悟だ!)

「コンコン」

「誰だ?開いてる。」

出口の無い決断を迫られる私の悩みを、ノックする音がかき消した。

「リディアちゃん、帰ってたなら言いなさいよ~!」

「エマか、すまない。もう遅いと思ってな…。」
****
「え~!『トールの槌劇』を演じるカイザー丞相!?
それをロイと観賞して!?
リディアちゃんもバカね!
王宮に帰って来ずに、ロイとそのまま逃げれば良かったのに!」

「バカな…!私は騎士団長だ!」

「ロイは内務大臣でしょ!ジオン兄さんなら惚れた女の為ならやるわよ」続