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リーセ王国謁見の間
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「ミネルバ=リーセ王女殿下のおな~り~。」
30半ばの男性が膝を付き、ミネルバ王女に頭を下げる。
玉座に座る王女は、優雅さと気品を保ちながらも、謙虚さを忘れていなかった。
「ご機嫌うるわしゅうございます。
キャラガー外務大臣。
ハイネ王子は息災でしょうか?」
スールシャール王国のジオン=キャラガー外務大臣はロイやリディアとは10歳ほど年上だが、四人の幼なじみには間違いないなく、ハイネ殿下も含めて「兄ちゃん、兄ちゃん」と慕われてきた。
生来の放浪癖と貴族嫌いの為、官職には就かずに船乗りにでもなるだろうと思われたが、このリーセ王国の周遊から帰国した後に外交官のポストを突如希望し、元々の優秀さにロイ内務大臣とハイネ殿下の推薦もあり、瞬く間に外務大臣に就任した。
「両国の友好」の為に、年の近いミネルバ王女とハイネ殿下の婚約を推し勧めてきた中心人物であったはずだが…。
「お久しぶりでございます、ミネルバ姫。
今日は火急の報せがあり…。」
「キャラガー外務大臣。病床の父王に代わり、政治など全くわからない私が代理を務めることをお許しくださいませ。
そして本来ならばカイザー大臣に一任する所でしたが、ほんの行き違いでそちらの国に向かわれましたので、副大臣のリュングベリが介添えすることをお許しくださいませ。」
「…そうですか…。カイザー大臣には至急にお目通りしたかったのですが、仕方ありませんね。
私の部下の下準備が出来てない不手際です。申し訳ございません。」
「キャラガー外務大臣、どうか頭を上げてくださいませ。
晩餐会を用意してますので十分にお楽しみくださいませ。」
「ミネルバ王女様…それは…。」
「お黙りなさい、リュングベリ!これは私のお気持ちです!」
「ミネルバ王女、お言葉ですがリュングベリ副大臣の言われますとおりです。一介の外交官の私を国賓扱いされますと、私がハイネ殿下の忠義に背くことになります。」
「申し訳ございません。何分、父王様とカイザーが居ないと私は右も左もわからず…。
リュングベリ、キャラガー大臣に友好の花冠を授けた後は、歓談を希望します。人払いを!
私の世間知らずをくれぐれも広めないように!」
和やかな笑い声が謁見の間に響いた後、別室に移動した二人。
ごく身近な側近だけで部屋の扉を守り…。
「ジオン!会いたかった。」
「ミネルバ、私もですよ。」