聖バーバラ女学院、恵明寮B棟の篠山五月の部屋。
「あ、あのう…五月のことは真理亜に任せましたわ。
私は部屋に戻ります。」
「まだいいじゃん。
点呼まで時間あるし?」
「ご、ごめんなさい!もうすぐ電話がかかってきますので…。」
「電話?一昨日もお兄さんからかかって来てなかった?
そんなに話すことあるの?」
「そ、そうなんです!
お兄様ったら、よほど妹の私が心配のようで…。
では、ごきげんよう…また明日。」
バタムとドアが閉まった途端に、真理亜と五月は堪えて感情を爆発させて笑い出した。
「ちょっと真理亜!
あんまり意地悪しないの!
弥生が突然のフリに応えれるわけないでしょう?」
「五月だってわかってるくせに!
他人の恋愛になると元気になるんだから!」
「ごめん、ごめん。でも『知らぬは本人ばかりなり』ね。」
「まずは初々しい弥生の初恋を私達で見守りましょう。
私達が知ってるってなると、余計に弥生は引っ込み思案になるわ。
今の五月みたいにね。」
「うっさいわね!
私はまだ赤尾さんを諦めないわ!
文化祭に…賭けてみる…三年生最後の文化祭だもんね…。」
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寮の自室に設置された固定電話。
カトリック系の厳しい規則が課せられる聖バーバラだが、部屋にそれぞれ設置された電話は、女生徒の命綱だった。
「トゥルル♪」
「はい!加納です!いえ、大丈夫です。事前に予定は済ませましたので…。」
固定電話の前に正座をし、液晶ディスプレイとにらめっこすること7分。
1コールで受話器を取って相手は、加納弥生の意中の人物だった。
氏家慎吾。
男子校の徳川実業野球部員で、真理亜経由で奇妙な縁が生まれ、(前作オーバーフェンス参照)今では手紙と電話のやり取りをする仲であった。
「あぁ、届いたよ。
ありがとう…。
嬉しいよ。
でも…本当に俺でいいのか?」
「招待状を贈る相手なんて居ませんでしたから…家族は別に割り当てがありますので…。
氏家くんさえよろしければ…。」
「あぁ、絶対に行くよ。
俺なんかがバーバラフェスティバルに行けるなんて文字通りシンデレラボーイだな。」
「バーバラフェスティバルだから嬉しいのですか?」
「バカ!加納さんと過ごせるのが嬉しいんだよ。
言わなくてもわかるだろ?」
「言ってください…。」
「あっ俺にもニュースが…。俺の実家の氏家建設が君の寮の修理に行く。俺も実習生として会いにいく」