9月は台風の季節。
北条連山の頂上は、麓よりも強い風が吹いていた。
こんな夜に寮の屋根に登ろうとする一人の少女。
別に屋根瓦を補強するわけではない。
その逆だ。
聖バーバラ女学院三年生の三好真理亜は、寮のテレビアンテナをねじ曲げる為に屋根に登ろうとしていた。
「テレビが観れなくなれば、イケメン電気屋さんの赤尾さんにまた会える」
真理亜にはただそれだけの理由しかなかった。
「悪戯は命がけだから面白いのよ」
ウィンドブレーカーを着込み、部屋の窓から上半身を乗り出そうとしていた。
その様子を親友の篠山五月と加納弥生は心配そうに見守る。
真理亜は心配する二人を心配し…。
「貴女達は私の心配よりも、弥生は点呼をゴマかすことだけ考えていて。
それに五月は赤尾さんに会えた時のセリフを考えときなさい!
惚れたんでしょう?」
不意に投げかけた真理亜の言葉に篠山五月が赤面する。
心意を突かれた言葉に戸惑う姿は、普通に恋する女子高生だった。
「うん…。
私は『守衛室はどこですか?』って声をかけられただけなんだけど…。
爽やかな笑顔にね…運命を感じちゃったのよ…。」
真理亜は自室の窓から屋根を目指そうとしてたが、五月を落ち着かせようと、再び部屋に入った。
「まさか、中学の時に散々男遊びして、その禊で我が聖バーバラに放り込まれた五月お嬢様が一目惚れとはねぇ~。
是非ともそのイケメン様お会いしたいわ。
全く、高坂くんはどしたのよ?」
「ねぇ、男子と遊んだら何でウチの学校に進学させられるんですか?」
『弥生は黙ってて!』
「真理亜はその時、礼拝堂の掃除させられたんだっけ?
何やったの?」
「何もやってないわよ!
課題の旧約聖書に関するレポート提出で、『創世記19章30節』を掘り下げ過ぎたら怒られちゃった♪」
「確かそれって、ロトが実の娘二人と禁断の関係を持つ部分でしょう?真理亜らしいわね。
理事長の怒った顔が目に浮かぶわ。」
「ちょっと、赤裸々に描写し過ぎたかな?
神学的研究レポートとして寛大に許容してくれなかったのは、ひとえに私の文才の無さだから掃除も楽しかったわ。
でも、礼拝堂で正座ってキリスト教関係なくない?」
「どこで怒ってんのよ真理亜!
まぁ…赤尾さんが真理亜より先に私と出会ったのは、きっと神様の思し召しだわ…。」
「じゃあ、行くね。
今夜、私がアンテナを曲げても、みんな嵐のせいって思うわ」続