六日目
「おはよう♪昨夜は凄かったわ…。」
「あの、社長、僕は…。」
「悠子って呼んでって言ったでしょう!
それに慣れない『僕』なんて使わなくていいから。
ねぇ、それより、まだ時間あるからもう一回駄目ぇ?
久しぶりの女の喜びなのよ…」
「最近じゃご無沙汰だったのか?」
「うん…もうずっと仮面だったから…。
最近は綾乃ちゃん効果も低くてすっかり…。」
「俺は丁度いいタイミングだったのか?」
今日は自室での目覚め。
昨夜の俺は文字通り、悠子社長の手を掴んで放さなかった。
そしてその手を引いたまま、俺は悠子社長を自宅に連れ帰った。
昨日の勢いは「義憤」だったのだろうか?
若く純朴な綾乃ちゃんをそんな風に仕立てた二人が許せなかった。
悠子社長との社長室でのキスは、俺に取って衝撃的な興奮だった。
だが途端にそれが気持ち悪く思えたのだが…。
俺の問い詰めに対して、悪びれるでもなく、あっさりと認めて開き直る悠子社長。
涙混じりの仮面夫婦の身の上話は、加害者のくせに被害者ぶる典型だった。
先日、得意先の社長にやった時の感情が、悠子社長に対しても湧き上がってきたが…。
「赤ちゃん…。」
「…え…?」
「…もう、産めないんだ…。
それがわかった途端に、あの人、人が変わったように…。」
愛すべきパートナーから子供だけを望まれ、それが叶わぬとわかった瞬間に手の平を返された彼女の深い傷はどれほどのものだっただろう?
自分より若い女性をあてがう選択をした彼女はどれほど追い詰められてたであろうか?
キャリア女性として社長に抱いていた恋心と、家庭円満そうに見える奥さんとして、人生の先輩に対する憧れ。
この二つがただの憐れみや同情に堕ちた瞬間に、彼女を抱けるなんて…こんなに重い罰はねえよ…。
俺はどれほどの罪を犯したか…。
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「…それでも、離婚はしないんだろう?」
「うん…ごめんね…。」
「謝んなよ!余計イラっとするから!」
「ごめんなさいしか言えないけど…時々、ここで過ごすことは出来るから…。」
卑屈な態度を見せる悠子社長は俺に嫌われない一心だった。
多分、自分の旦那にもこんな態度なんだろうな、と思った時…。
「明日の10時30分の新幹線よ…。」
「何の話だよ?」
「綾乃ちゃんが実家に帰るなら、その時間よ。
見送りに行きたかったら行きなさい。」
「ふざけんな!
何で一々お前の許可を」続