1日目
「そろそろ行くわよ、里中くん。」
「はい、社長。」
今日ほど気が重いことはない。
俺のミスで先方を怒られせ、社長を伴っての謝罪行脚。
美人で優しい三石悠子社長に庇われてる俺は何とも情けない立場なわけで…。
「社長、里中さ、上手くいくこと祈ってますだぁ。」
「おいおい、里中。彼女を心配させてんじゃねーぞ!」
「だから違うっていつも言ってるでしょ!
でも…ホントに俺のせいでスンマセン…。」
小さな広告代理店だから、少ないスタッフで遣り繰りしてる。
年が近く独身てことで、俺は同期の武井綾乃ちゃんとカップル扱いされるわけで…。
「や、やめてけれ!里中さに迷惑だぁ…。」
「だから武井さんもそういう言い方が誤解招くから…。」
「はいはい、痴話喧嘩は帰ってからになさい!
行くわよ!」
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「あっ、社長。
俺の車こっちで…。」
「ごめんなさい。
私が運転するから乗りなさい。
私、イライラしたら愛車を飛ばさないと気が済まないタイプなの!」
「すみません、俺のミスで社長をイラつかせて…。」
「え?あぁ、そっか。
流れからしたら、そっちと思うわね。」
「どういうことですか?」
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「申し訳ございませんでした!」
広告を掲載するにしても、ライバル会社とダブルブッキング。
新規開拓より、古いコネクションがモノを言うこの世界では…。
「申し訳ございませんでした。」
ただ頭を下げるしかない。
新規の客は今後の関係を断ち切られるだけだが、お得意さんはそうはいかない。
こっちが謝り、会社としてウチと関係を切る気がないのは分かってるが…。
「悠子ちゃんも、こんな社員に任せるなんて、随分立派な社長になったねぇ~」
これだ。
ただの憂さ晴らしの嫌がらせ。
どうせ次にはこのエロダコ親父は…。
「悠子ちゃんも新人の時は股を開けば客が取れたかもしれないけど、女社長としてやってくなら…。」
「そこまでにしとけやセクハラ親父!」
「バシャッ!」
「ちょ、ちょっと里中くん、やめなさい!」
あまりに腹が立ったから社長机の花瓶の水を頭からかけてやった!
「お、おい貴様!
どういうつもりだ!」
「どうもこうもねえよ!水が冷てえなら、給湯室で熱湯浴びっか?」
「やめて!本当にやめて、里中くん。」
「行くぞ!おい、車の鍵出せ。」
「はっ、はい。」
俺の態度に怯える社長は少女のようだった。