「医局長の権藤不二夫(ごんどう ふじお)です。」
目が覚めれば、私は天井を見上げていた。
神戸からの帰り道、私は意識を失い、病院に運ばれたみたいだ。
私の傍らに居る宗時さんはその手に虎徹こと、私のパートナーのおみねちゃんを握りしめていた。
その姿を見て、私は医師が何を話すかわかってしまった…。
「北御門さん、医師として言います。
今すぐ、その妖刀を手放しなさい。
貴女の人間の肉体は、刀から発生する妖気に蝕まれている。
体内に残留した妖気をこの病院で除去しても、貴女がその妖刀を使って悪霊退治、淫魔退治を繰り返す限り、何度も同じ結果を繰り返すでしょう。
長生きしたければ、正義の味方気取りなんかは止めて、婚約者の彼の為にも家庭に入りなさい。」
身体に無理が来てることくらいわかってた。
子供の時から運動音痴な私が、30過ぎてから剣術修行するだけでも大変なのに、虎徹に宿る『霊体の』おみねちゃんは、持ち主の私自身をエネルギーとしてるからだ。
宗時さんと佐田君を守る為に、私はおみねちゃんに強い妖気を求めた。
その度におみねちゃんは期待に応えてくれて、強敵を蹴散らしてくれた。
平凡な人間の私が、宗時さんと佐田君の『そっち側』の世界を守れているんだ、って最高の気分だった。
私は宗時さんの全てを守りたかったし、ソロモンの悪魔の称号を持つ彼との溝を埋めるには、私が剣を振るい、彼の背中を護る盾になることだと思っていた。
いつしかおみねちゃんの妖気、妖力を自分の力だと思っていた。
私が宗時さんと佐田君を助けているなんて勘違いだったのかな…?
私の行為は「未来のツケ」という名の借金で豪遊してたのかもしれない…。
でも…。
「嫌よ!おみねちゃんと別れるなんて嫌!何の変哲もない私を変えてくれて、宗時さんとの結婚を決意させてくれたのはおみねちゃんのおかげよ!
刀に憑いた幽霊だなんて関係ない!
親友を簡単に手放すなんて無理よ!
私は結婚するの!
おみねちゃんも連れて幸せになるわ!」
馬鹿な主張なんてわかってた。
でも、充実した一年を全てこの医師に否定されたみたいで我慢出来なかった。
宗時さんも口を開き…。
「瞳、どうやら君は急ぎ過ぎたようだ。
段階を踏んで霊能者として修行を積む道もあります。」
優しい宗時さんは私に無理させまいと宥めようとしてた。
そして今度はおみねちゃんが…。
「瞳、私は貴女達の幸せの足枷になりたくないわ」続