瀬戸際の花嫁 1 | 最後の哲学者~SPA-kの不毛なる挑戦

最後の哲学者~SPA-kの不毛なる挑戦

このブログは、私SPA-kが傾倒するギリシャ哲学によって、人生観と歴史観を独断で斬って行く哲学日誌です。
あなたの今日が価値ある一日でありますように

「それでは皆様、行って参ります。」

黒いスーツにワインレッドのネクタイを締めた壮年の男は、しっかりと傍らの女性の手を握りしめ、店先で見送るスタッフ一同に丁寧に挨拶をした。

「ウチの副店長を3日も貸すんだからね。
神戸土産楽しみにしてるわよ。」

去年、一昨年よりも体格が良くなっていく?店長は気だるそうに、そしてわざとらしい冗談を言うのは、誰よりも二人の出発を祝福してるからだ。

「はい、勿論です。
瞳の故郷である神戸土産を楽しみにしててくださいませ。」

「ちょっと、それよりもちゃんと結果報告してくださいよ!
お二人の成功は、私達にとっても凄く参考になるし、励みになるんですから…。」

「奈々子の言うとおりだ、バラム…いや、原…さん。
貴方達はただ自分達の幸せだけを考えてほしい。
そこから生じる軋轢は、私と姉上達で全力で助けることを保証する!
さぁ、早く行ってください。遅れてしまいますよ…。」

「サタン様…何という勿体無いお言葉!
ソロモンNo.51バラム恐悦至極に存じます…。」

「やめよ、バラム。
ここは人間界だ!
余はただの雑貨屋アルバイト店員の佐田星明に過ぎぬ。
そして北御門副店長は余の上司であり、お前は悪魔バラムではなく、人間・原宗時として、北御門さんと一生を共にする約束をしたのであろう?
これから家族の主となるものは堂々としていればいい。
但し、北御門さんのご両親には平身低頭にな。
『ユダヤを苦しめた呪術師』の記憶はたかだか3000年前の昔話に過ぎぬ…。」

「北御門さん、これが終わったら挙式なんですよね?」

「うん、ウチの親のあの口調なら反対はしないと思うわ。
反対されても宗時さんとは別れないけどね~。」

「はいはい、幸せ絶頂期なのは十分にわかりましたから、早く行ってください!」

「あ~、つれないなぁー奈々ちゃん。私、ブーケは奈々ちゃんにあげるつもりなのに~。」

「あ~、それは絶対にほしいです!」

「瞳、本当に時間だ。
先方を待たせてはいけません。」

「じゃあ行ってきま~す!」

****
副店長の北御門瞳さんは、実家がある神戸に向かった。
勿論、ご両親の挨拶の為に原さんを伴って。
人間でありながら悪魔扱いされたバラム。3000年前の記憶と呪術師であり占い師である原宗時さんが、私達の副店長である北御門さんと「人並みな結婚」をする。
それは私と星明に取っても希望の星であった。
(続)