警視庁公安部
「天宮君、天宮君は居るかね?」
「鬼見土警視鑑殿!こ、このような場所にまで自分の様な者を訪ねてくださり…。」
「ホホホ、私に堅くなることはない。
君には期待してるよ、何せ君は『大戦の英雄』だからな。」
「いえ、いくら相手が海竜リバイアサンとはいえ、私一人だけがおめおめと生き残り…。自分は先輩方の犠牲の上に…。」
「何を言うか、天宮警部。たった十人の能天使だけで人間界に迷いこんだリバイアサンを撃退したんだ。
よくぞ君だけでも生き延びてくれた。」
「け、警視鑑殿。お言葉ですがリバイアサンは人間によって召喚され…。」
「21世紀の東洋人に海竜リバイアサンを召喚出来るわけあるまい。
いいね、天宮君。あれは事故だったのだよ。
責められるべきは入界管理局のゲート課の怠慢ということにしておけばいいのだよ。
決して、私の元部下の能代王明と史香ディナターレが反逆の為に手引きしたのではない。
天宮君、君はこれからも英雄らしく振る舞っていればいいのだよ。」
「…はい…身に余る光栄であります…。」
「ハッハ、それでいい。
天宮君、君の話をしたらウチの娘が大変興味を示してねぇ。
今度、我が家で君の武勇伝を聞かせてくれないかね?
この意味がわかるだろう?」
「…はい…。」
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僕は英雄なんかじゃない。
僕は真っ先に気絶して、目が醒めた頃には僕以外の先輩達はもう…。
能代警視と史香巡査部長が反逆罪が捕まると同時にリバイアサンは消えた。
鬼見土警視鑑は手塩にかけた部下のスキャンダルの火消し対策として、僕を『リバイアサンを退けた英雄』にしたいわけで…。
「見合いからの政略結婚…か…。」
重い足取りでアパートの鍵を開ける。
灯かりはついてる。
「ただいま。」
と声をかければ
「お帰りなさい」
と返ってくる。
僕はこの「幸せの麻薬」から抜け出せないでいる。
僕はこの麻薬の為に全ての人を欺いている。
「お帰りなさい、ア・ナ・タ…♪
ご飯…頑張って作ってみたんだ…上手くないけど…。
水道もガスもやっと使い方に馴れてきたわ」
そう、最強の魔王リバイアサンは僕の部屋で飼っている。
いや、飼われてるのは僕だ。
彼女を召喚した契約主との契約内容は
「10人の能天使を蹴散らしたら、彼らを好きにしていい。」
なのだから…。
僕との「お嫁さんごっこ」が彼女の「好きなこと」だった。
僕は逃げられない。