9歳の拓哉少年は、女の子の様な顔立ちと、絶望的な運動神経の無さがコンプレックスだった。
拓哉少年は学校が好きではなかったが、何とか問題なく登校し続けた。
彼に取って学校は辛い場所に違いなかったが、楽しい所もあったからだ。
取り立てて学校の成績が良いわけではなかったが、彼は豊富な知識を有していた。
クラス一の秀才が知らないことを知っていた。
時に担任の教師でさえ返答に窮する鋭い質問もした。
義務教育では決して教えてくれない歴史や科学の話に同級生は耳を傾けた。
拓哉少年の話はクラスメートの知的好奇心を常に刺激した。
小学三年生くらいになれば、どのクラスでも一度は「オカルトブーム」が訪れます。
拓哉少年の三年三組も例外ではありませんでした。
心霊写真の本を学校に持ち込む者や、髪の伸びる市松人形の話で話題騒然となったり、友人宅のフランス人形が呪われてる、とか好き勝手言ってました(笑)。
なお、この「オカルトブーム」は、親が子に鉄拳制裁を出来なくなった昨今、教育上とても有益なのだそうです。
それは「怖い物」を明確に認識することで、社会のルールや人間関係の目上の者に対する礼儀を学ぶ上で「怖い」はとても重要なのです。
そして「幼児」が「社会」に馴染み、中学生で部活動で「先輩後輩」を学ぶ前の1クッションとして、小学三、四年生にオカルトブームが訪れることにより、「傲り」を無くし、五、六年生上級生の自覚を持ち、中学生になれるのです。
「怖い話知ってるけど、聞きたい?」
拓哉少年もオカルトブームに乗っかり、仲の良い友人に切り出しました。
歴史や科学だけでなく、妖怪や悪魔に詳しい拓哉少年の話にみんな興味津々です。
誰もが期待しています。
「拓哉ならどんな怖い話をしてくれるのか?」
と。
皆が緊張して拓哉に注目しています。
彼の話の「面白い」は「可笑しい」ではなく、「興味深い」の面白いです。
拓哉少年は切り出しました。
「ちょっと長くなるから、短く纏めてますね。」
クラスメートが無言で頷く。
拓哉少年は言いました。
「人が死んでん。」
…はい、当時9歳の拓哉少年が話した、「世界一短い怖い話」でした。
はい、幽霊だろうが、怪物だろうが、最終的には誰か犠牲者が出るだけの話。ってことを当時の拓哉少年は最上級の皮肉を込めて同級生に話したのでした。
皆は笑うでも怒るでもなく、ただ唖然としてましたとさ。
終