「人払いの術はどうした!?」
鬼見土治(おにみど おさむ)警視監は一般人がこの柔道場に入れたことに驚いた。
こんな警察官僚のトップが僕達の前に現れたのは、可愛がっていた部下の能代王明をさっさと「回収」したかったらしい。
後で聞いた話だが、鬼見土警視監は能天使より二つ階級が上の「主天使」(ドミニオンズ)で、人間界に降臨することは殆どないらしい。
本来はNATO軍のお偉いさんに化けることが多いみたいだけど、日本で起きた可愛い部下の不祥事に、ドタバタで警視監って設定で天界から送り込まれたらしい。
確かに「鬼見土」って無理矢理感が半端ないよなぁ…。
天界も色々大変だ。
でも運命操作って?
今この柔道場で喚き散らしてる奥さんは、自分の旦那さんが天界に連れて行かれたら、綺麗さっぱり忘れてるってこと?
いや、記憶を消されるってことじゃなく、最初から結婚してなかったみたいに過去と未来が操作されて、それに疑問を持たないってことか?
それが最低な旦那でも…。
それでいいのか?
どうせ天界の神様や天使様には、たった一人の人間なんてどうでもいいのかもしれないけど…。
宇都宮先輩も、もしも天界に帰らないといけない日が来たら、僕は記憶は消されるのか?最初から出会ってなかったことにされるのか?
そんなの嫌だ!
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「警視監!我々の人払いの術に手違いはありません!」
「馬鹿な…。術を破って入ってきたのか?インドラ君は人間界で普通の人間女性と結婚して15年になると言ってたが…。」
お偉いさん達の秘密の会話は秘密になってない。
一体警視庁に何人天使が常駐してるのやら…。
僕も天使と思われてるから上は警戒しないんだろうね。
「嫌ぁ、王明くんを連れてかないでぇ…!」
警視監は部下に小声で「早くこの女の記憶を消すか眠らせろ」と、言ったが部下の天使は「もう、やってます!」と、取り乱す寸前だった。
奥さんは遠くに僕を見つけ…。
「あ~、取調室に居た可愛い子だ、こんにちは~!」
と、無邪気に挨拶したと思ったら急に低いトーンで…。
「…王明くんを連れてかれたら、『復讐』出来ないでしょう?人間界のことは人間界で決着つけないとフェアじゃないよねぇ?
私、この男と離婚するから。
名前も能代から旧姓の『志戸』に戻したいの。」
『正体』に気付いた真利子さんは恐怖で震え
「ウソ?貴女だったの?許して!貴女のご主人て知らなかったの!」