「お待ちしていました。」
指定されたとおり、警視庁の柔道場に彼は一人でいた。
星明に釘を刺されたとおり、私と真利ちゃんはあくまで「人間として」交渉することにした。
「能代警視、近藤刑事を早く釈放してください。
無認可保育所ネイチャーハウスは、少女売春なんてやってません!
行方不明の峰山亜由美は、芸能プロダクションの宿舎で寝泊まりしてただけです。寧ろ、その事務所の方が悪質です!
調べるならそっちです!」
あくまで、あくまで冷静な話し合いをするつもりだ。
峰山亜由美と、彼氏役の俳優は、能天使が現れたと同時に逃げるように言っておいた。
八王子まで行けば聖ヨハネ病院の管轄下だからラファエル姉さんに保護して貰える。
いくら好戦的なパワーズといえ、証拠隠滅の為に罪無き未成年に危害を加えないだろう。
「なるほど…ウリエル様は『人間の刑事』としても随分優秀ですね、私とは違う。」
その言葉は私にはとても白々しく聞こえた。
彼は自分の賢さを鼻にかけてるに違いない。
「私だけの力じゃないわ!
近藤くんを含めて、たくさんの仲間の協力あってこそよ!」
その言葉に表情を変えない能代警視だったが、視線だけは私の後方の真利ちゃんを見て…。
「優秀な…なるほど…。
まさかウリエル様と真利子がこんな早く繋がるとは思っても居ませんでしたよ、世の中は狭い。
まぁ、元々、少女売春なんて、彼を引き離す口実ですよ。たまたま義母が理事を努める施設の名前を使用させて頂きましたが…。」
「王明さん…。」
真利ちゃんは震えていた。
奥さんと思われる人から電話を受け、グラシャ=ラボラスと契約した。
その後はじめて能代警視に会ったのだから。
「真利子、いや、アンドロマリウス。確かに君は非常に優秀だった。
感謝しています。
しかし、君はてっきり最初から妻の存在を知っていたと思っていたが…。
その点については梨衣子の非礼を謝ろう。
不躾な電話をかけたそうで申し訳ない。」
真利ちゃんは茫然としていた。
当たり前だ。
悩み抜いたここ1ヶ月だけじゃない。
交際し続けてた三年を一瞬で否定されたからだ。
「王明さん、私は貴方の何だったの…?」
「文字通り、『踏み台』では不満ですか…?おかげ様で警視正になれた事に感謝…。」
と、言いかけた時、グラシャ=ラボラスが手刀で切りかかった!
これには能代警視も「翼」でガードするしかなかった。
そう、能天使の翼だ