八神巡査は僕が卒配して最初の交番に勤務していた30代前半の先輩だった。
寡黙だけど、正義感が強い女性だった。
典型的な「仕事が恋人」タイプで浮いた話は聞いたことがなかったけど…。
そっち方面に疎い僕でもわかる。
警察官僚が約束されたエリートの、その奥さんに八神先輩がこんな啖呵を切るってやっぱり…。
何でこんなムカつくエリートばかりモテるんだー!?
いや、そこじゃなくて、真面目な八神さんが何で…。
「言いたいことはそれだけかしら?
『実家の財産』しか取り柄の無い奥様♪
旦那の管理も出来ない人間が資産をしっかり管理出来るかしら?」
「お、お母さんの事業は、あ、貴女に関係ないでしょ!
タカ君は最後は私を選んでくれるのはわかってるもん!」
「40過ぎのオバサンがキモいからその口調勘弁してよ。
どんなに若作りしたって…。
女の幸せは手に入らなかったみたいね。
私、妊娠してるの。」
「……。」
「……。」
「……。」
八神先輩の衝撃の告白に、その場に居た僕を含めた三人が沈黙する。
三人それぞれの固まった表情を確認した八神先輩はケラケラと高笑いをしながら。
「勿論、『今の』彼氏の子よ。
夏に結婚するの。
彼、国税局勤めだから、脱税には気をつけるのね!
近藤くん、式には必ず来てね。
私、今凄く幸せなの。」
ハッタリをかますにしても、奥さんや後輩の僕が驚くのはわかる。
でも当の能代までが驚くのは、いろいろと許せない気がするんだけど…!
「能代警視、奥様。
過去の過失割合は、大人の男女なら五分五分かと思うわ。
ただ…『確信犯』だった私の方が幸せを掴むと、余計に『小娘』が可哀想だわ…。
奥様、貴女が取調室まで来たのは、近藤くんと『小娘』を間違えたからでしょう?」
「ふん、な~んかシラケちゃった。
もういいもん、帰る。
今夜帰って来てもご飯用意しないんだからね!」
と、能代警視の奥さんは取調室は出ていった。
「あ、あの八神先輩?」
「あれくらいのウソ言わないとあの人帰らないでしょう?」
「ウソ?じゃあ赤ちゃんは?」
「居るわけないでしょう。
彼氏も居ないんだし。
でも、『小娘』は本当ですよね?能代警視?」
「君の後輩の前でそれを言わせるのかい?
君のウソと言うのがウソかもしれないのに?」
過ちを悪びれない能代に苛立つが、奴の携帯が鳴り…。
「何だと!?出翼許可?海竜が出た?馬鹿な! 」続